2001 年 5 月 12 日発行:こまえクリニック 医学博士 放生 勲  狛江市東和泉1‐ 31‐ 27 TEL 5438‐ 2525

No.8

体外受精の実際


◆体外受精とは?
 体外受精は不妊治療において、タイミング法、人工授精のあとに位置するステップアップの最終段階ともいえます。体外受精ともなると1回あたりの医療費が30〜60万という高額なものです。そして、体外受精による妊娠率は平均25%、すなわち4人に1人しか成功しない医療です。ですから、この治療を受けるに当たっては、医師からの説明はもちろんですが、受ける側もきちんと基本的な知識を身につけておく必要があると思います。とくに不妊治療医の中には体外受精の有効性だけを強調する医師も多くみられますので、体外受精の光の部分だけでなく、陰の部分についても知っておきましょう。
 ここで、体外受精の歴史をちょっとだけ振り返ってみます。体外受精は1978年に英国で初めて成功し、ルイーズちゃんという女の子が誕生しました。当初、「試験管ベビー」という言葉がはやったのを覚えている方もいるかもしれません。しかし、この言葉は実相を反映せず、差別的な響きをもつため、まもなく使われなくなってしまいました。日本においても、1983年に体外受精による第1子が誕生してからは、その数が増えつづけ、1998年には年間1万人を突破しました。現在では、累計で6万人以上が、体外受精によって誕生したと思われます。なによりもこの数が、体外受精というものに市民権を与えたと私は思います。

◆体外受精の実際
 体外受精のプロセスは、1)排卵誘発 2)採卵 3)採精および精子の調整 4)試験管内受精および培養 5)胚移植 からなります。 

 体外受精を成功させるためには充分に発育した卵を数多く採取することが重要です。この目的のために用いられるのが、排卵誘発剤です。体外受精は女性の体にも負担のかかる治療だということも、知っておいてください。自然周期の排卵は左右どちらか一方の卵巣から1個のみです。しかしながら体外受精においては、一度に多くの卵が必要です。これは採卵した卵子のすべてが受精するわけではないからです。この目的のためにHMGという卵巣を刺激する注射を何回も行います。また、使用されるHMGの量はタイミング法などの際に用いる量よりずっと多くなります。これによって両方の卵巣の中で一度に多くの卵子が成熟します。しかし、これらが排卵してしまっては、万事休すなので、同時にスプレーキュアという点鼻薬を使用します。これは、子宮内膜症でも使う薬なのですが、排卵を促す黄体化ホルモンを抑制することにより、LHサージ(排卵前に黄体化ホルモン濃度が急上昇する現象)をなくしてしまいます。したがって、このときの患者さんは両方の卵巣に多くの成熟卵がありながら、排卵せずにいるという非生理的な状態になります。これは女性ホルモンのバランスからいって、患者さんにストレスがかかった状態です。また、卵巣が薬によって強く刺激されていますから、卵巣過剰刺激症候群の出現にも注意しなければなりません。

 採卵は経膣的に注射針を卵巣に刺しておこないます。排卵誘発剤を使用していますから、通常5〜20個の卵を得ることができます。採卵と平行して採精をおこない、洗浄、濃縮して元気のいい精子を回収します。

 受精は採卵から1〜3時間後に、シャーレの中で(試験管内ではなく)調整済みの精子をふりかけられておこないます。受精した卵は分割を始め、翌日には受精卵として確認する事ができます。体外受精が成功するかどうかの1つの鍵は、どれだけ質の良い受精卵が得られるかということです。ある不妊治療医は、この受精卵をダイヤモンドを評価する際に用いる「4C」すなわち、Cut(カット)、Color(色)、Clarity(透明度)、Carat(大きさ)を例に出し、色がきれいで、透明感があり、形が良く、はりがあって、傷がない卵子が着床率が良いと述べています。不妊に悩む女性にとっては、苦労して得られた卵はまさにダイヤモンドのようなものでしょう。

 受精が無事に終了した受精卵は胚と呼ばれます。通常採卵から2日後に胚移植をおこないます。移植後は、妊娠の確率を少しでも上げるために、黄体ホルモンの補充をおこないます。はやい場合には、採卵から2週間後に妊娠の確認がされます。

 体外受精がこれだけ普及した背景には、これを行える不妊治療医が増えたことに加え、かつては何日も入院しておこなわれていた体外受精が、外来で行えるようになったことが大きく寄与しています。しかし、この治療法によって生まれた子供の数が増えるにつれて、体外受精を希望する女性が増えてきたことが1番の理由でしょう。しかし、体外受精には、様々な問題点もあります。

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