無伴奏チェロ組曲


チェロ弾きの端くれの自分としては、どうしてもこの曲抜きではいられない。
ジャズやポピュラーなどにアレンジされても全く違和感のない、無限の可能性を秘めた名作だと思う。
どの演奏も作品に対する敬愛の情とテクニックや音色に、ただ感動!!
この録音にいたるまでの、自己研鑽の歴史はいかばかりか・・・考えると、そうおいそれと
BGM代りに聴く気はしなくなる。

ポール・トルトゥリエ


1982年録音のもの。自分が始めて買った無伴奏のCDで思い入れが深いものだ。
トルトゥリエはバッハの誕生日に生まれて、ストラディバリの命日に亡くなった人だとか・・。
しなやかさ、温かさ、彫りの深さ、力強さ、いろいろな要素を持った演奏だと思う。
とにかく作品に対する真摯さが前面に出た演奏。音楽が偉大だった時代の最後の証言とも
いえる演奏。美しさと言う点では他にいろいろなものがあるけれど、演奏家が全人格を持って
作品に向きあっているのが分かると言う点で一番感銘深い。
自分はこんな風に無伴奏を演奏したいといつも思う。
1961年の旧録音よりも自分は1980年代に入ってからの録音のものが好き。

あまり関係ないけれど、トルトゥリエが使っていた弓、Albert nurnbergerが手に入った時は
嬉しかった。


ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ

デスクに刻まれたあらゆる「無伴奏」の王!!
ロストロポーヴィチはその弟子の一人マイスキーに「バッハの無伴奏はチェリストとしての
評価を決定付けてしまう。それが一生付きまとうことになるから、よもや生半可な気持ちで
録音はしないように」と言ったという。
マイスキーは映像も含めて3回もこの曲集を録音している。偏見では無くマイスキーの
演奏は嫌いだ!!
彼は師匠のこの演奏を聴いてどう思っているのだろうか???
まさしくロストロポーヴィッチだけにしか弾けない「無伴奏」あまりに大きな「無伴奏」だ。
本領発揮はやはり5番だろう。冒頭いきなりスピーカーが壊れたのでは?と思うほどの
迫力だ。無論音量のことなど、この演奏の凄さのほんの一端を示したものに過ぎない。
彼は70歳近くになってこのデスクを録音している、カザルスも68歳。これを意識したものか
どうかは分からないが、とにかくロストロポーヴィチのバッハに対する敬愛の念は、言わずとも
この演奏が全てを語っている。



パブロ・カザルス

ほっとするんだよな・・・この音色。自分の持っているCDの中では技術的には一番下手に聴こえる
が・・よく聴くとなんと自信に満ち、気合の入った力強い演奏だろう。
「聴いてくれなくてもいいんだ・・・俺はチェロを弾くのが大好きだから。バッハが好きだから」
そんな声が聴こえてきそうな自在な表現と言うか、心の赴くままに弾いているよな演奏でもある。
そして、いかなる名器を持ってきて、いかなる名手が弾いてもこんなに温かいこの音色は聴くことが
出来ないのは不思議でもある。

正確さでもなく、格好良さでもない・・とにもかくにも、音楽の奥深さを考えさせずにはいられない演奏。
このCDも「オーパス蔵」と言うレーベルのCDで驚くほど素晴らしい音に蘇っている。



ピエール・フルニエ

「チェロの貴公子」とはよく言ったもの本当に洗練された品のある音色だと思う。
それ以上に感じるのが、細やかな表情付け、と誰にも負けないパッションのほとばしり!!
ライブ録音のものでは強くそれを感じる。
カザルスと双璧の、聴くものに、いろいろなことを語りかけて来る演奏だ。

4種類ある録音の中では1972年来日ライブのものが音質の良さも手伝って一番感銘深いと思う。
1959年ジュネーブのものも素晴らしい。


ヨー・ヨー・マ


この作品の無限の可能性を感じさせる演奏。21世紀この作品がどんな風に、人々に愛されるのか
の羅針盤のような感じがする。
これは舞曲(ダンス)なんだと改めて思わされるのはこの演奏。
思わず踊り出したくなるようなリズム感に溢れている。

ただ決して悪いことではないけれど、あまりに軽々と曲を弾いてしまっているようなところがあり、そこが
少し気になる。何と言うか、人生を感じさせない・・・そんな風に聴こえる。日本の誇るB社のコンピューター
・チェロで弾いているような感じだ。

アンドレ・ナヴァラ


無伴奏チェロは結構女性に人気のある作品だけど
この演奏は「冗談やないでぇ! 無伴奏は男のもんや」とばかりに、かなり硬派な演奏。
それでいてやはり、音楽の深さを極めた素晴らしい演奏だ。
男は黙って、チェロで語って、チェロで泣け・・・・格好いいぞ!!!
自分は今この演奏が一番好き。


モーリス・ジャンドロン

正調フランス風の演奏といった印象。音色は明るく軽やか。確かにこの作品群をあまり深刻に受け止めて
おらず楽天的といった評価も頷ける。
しかし無伴奏はもともとフランス舞曲集なのだ!!もしかしてバッハが作曲する時のイメージに一番近いのは
この演奏なのかもしれない。
持っている音楽の友社の楽譜がジャンドロンのボーイングによるものなのでよく聴くCDでもある。




ガスパール・カサド

今話題の伝説のピアニスト「原 智恵子さん」の旦那様。
スペインのチェリストで、カザルスのお弟子さんでもある。
第一印象「やはりカザルスに似ているな・・・・」と思う
この人のチェロも気品がある。あまり個性が無いと言えば無い演奏だけれど、
この温厚な音色には、やはり安心感を与えられる。


ダニール・シャフラン

最近、韓国のレーベルの輸入盤で出回っているCDの一つ。
詳しいプロフィールは知らないが、何でもロシア貴族の血をひく高貴な家柄の
人らしい。テンポの変化なども頻繁で、バロックとうよりロマン派の音楽を演奏
するようなアプローチをしているように感じられる。
それが故に、聴いていて少し疲れるのも事実だが、この作品の懐の深さを実感
させられる演奏として極めて貴重なものと言うことが出来ると思う。


パオロ・ベスキ(バロックチェロ)

まず冒頭のプレリュードには仰天!最初は違和感を感じるのもいたしかたない。しかし考えてみよう。
バッハの音楽は無限の可能性を秘めているのだ!!それを音として刻印した演奏はそう多くはない。
表情も実に多彩でそして深い。まさにバッハ演奏史に残るべく金字塔だろう。






藤原 真理

ふくよかな、温かい演奏だ。最初のプレリュードの静けさ!!そして起伏・・・。
やはり・・女性にしか表現出来ない世界がいきなり広がる。
音量や雄弁な表現力という点では歴史的名チェリストに劣るのは当たり前。
ここは少女が一つ一つの曲を宝石箱から取り出し、宝物ように愛でる演奏に耳を
傾けよう。



無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータ


前橋 汀子

誰が何と言ってもこれがNo1だと思う。ヴァイオリンは女性の向きの楽器だと言われる。
自分も同感だ、特にソロではまったくその通りだと思う。
とくに日本人はヴァイオリンという楽器を演奏するのに最適の感性を持っていると思う。
それを実証した代表的名演奏だと思う。
まずこの音色、和声の響きの美しさは最高だと思う。そして作品に対する畏敬の念と愛情
がダイレクトに伝わって来る。
日本の美しい四季折々の変化の情景。例えば冬の湖から白鳥が舞い上がる情景や、
桜の咲き誇る四月、紅葉を愛でる人々の姿。そんなシーンをバックにするとやはりピッタリ
来る演奏だと思う。
高校生の時に前橋汀子のステージを見たときあまりの美しさに顔を真っ赤にしてその姿
だけを見ていた思い出がある。やはり自分の中では並み居る巨匠を差し置いてNo1だ!!


ヨゼフ・シゲティ

決して流麗な演奏ではない、響きはむしろごつごつしているといってもいいかも知れない。
でも心に訴えかけて来るものが全く他の演奏と違うと思う。
チェロのカザルスととても似ているけれど、上手いとか下手とか言うのではなくて、この曲
の演奏に対する深い愛情が、孤高の芸術となって音になっていると言うべきか・・・・。
時は流れて現代、こんな演奏を目指す音楽家に拍手を送る人はいないのかな?
ここまでになるまで、途中で必ず潰される・・・・・。


ジョルジュ・エネスコ

 
このオリジナルのLPは最高値で300万円のプレミアが付いたらしい。
その高貴な音は世界中のコレクターの心を揺さぶったとのことだ。
かなり状態がよく、オリジナルを持っている人から90%以上の出来と評価されるコンチネンタル
レーベルのCDを入手し聴いてみた。
音楽は人の心から伝わるものだ・・そう考えれば、超名演。
いや音楽は考えて聴いても、その本当の姿は見えてこない。
感じるものだと自分は思う。そういったことを感じさせてくれる演奏だ!