読書日記

遅読のため、毎日書くことは困難ですが、備忘録も兼ねてまとめていこうと思います。

「犬」 ロバート・カルダー サンケイノベルス
犬の長所を交配によって強化し、理想の犬を生み出そうとする組織から逃げ出した子犬を拾った大学講師。講師は犬と暮らしながら
過去や現在の生活に折り合いをつけていく。そんな中その犬がある事件をきっかけに逃げ出した。犬は山に逃げ込み他の野犬と群れ
(パック)をつくり野生化していく。そして野生の本能から人間を襲い、人間たちから追われるようになる。
Jハーバートの処女作「鼠」と同じシリーズで、恐怖小説の体裁で出版されている。ところがどっこい、ここには恐怖小説の面影はない。
犬は交配で作り出されたという設定はあるものの、超自然的な恐ろしさはない。
例えば「顎(ジョーズ)」を例にとると、そこには超自然的要素はないものの、超自然的ともいえる鮫の恐ろしさと、鮫という知ってはいて
も普通はそんなに知識のない(つまりは未知の)魚類を題材にすることによる恐怖を生み出すことに成功していると思う。
作者は有名作家のペンネームということだが、詳細は不明。妙に内面描写があったりして、純文学系の作家かな、と思わせるものがある。
犬というあまりにも人間に近い動物を題材としたため恐怖感を生み出すことができず、常識の範囲を超えないこの作品は、動物小説として読めば、通俗的ではあるとしてもそれほど悪い作品ではないと思うが、恐怖小説の体裁で出版されたことは不幸だったかもしれない。
どちらにしてもあまり売れなかったとは思うが。ただし犬が怖い人が読めば怖いかもしれない。

9/23
「ノストラダムス秘録」 シンシア・スターノウ&マーチン・H・グリーンバーグ編 扶桑社ミステリー文庫
ノストラダムスにインスパイアされた作品を集めたオリジナルアンソロジー。裏扉にはホラー作家が書いているとあるが、基本的にはSFになっていると思う。各作品の感想。
「四行詩第一番・サラの書」50年代SF風のなつかしさに満ちた古風でユーモラスな作品。とぼけた味わいだ。「哲学者たち」前作が古風ならこっちはニューウェーブ風だろうか。あまり好みの作品ではない。「問題児」これまたアイディアストーリーで面白い作品だ。「STOP NOS」シリーズ作品に十分できるキャラクターで読ませる。全3作と異なり直接的にノストラダムスの詩を材料として使っている。「禁じられた艦隊の最後」これもアイディアストーリー。「エジプトのバックアイ・ジム」これまた連作にできるキャラクターである。日本でいえば「エマノン」だな。
これはSFというよりファンタジーか。「二十年後、セパレーション・ピークで」これはポリティカルフィクションの体裁を取っているが、青春小説の肌合いも持っている。「平和行動」完全なワンアイディアの物語。「暗黒の炎」ナチス+クトゥルー物。この本の中で唯一大瀧啓裕氏が訳している。おもしろいが、結末がやや中途半端。「通りで子供が遊ぶとき」終末テーマ。といっても滅びたのは極一部分だが。
「黙示録の四行詩」VRやコンピュータが登場し、おもしろい。
総じて読み応えのある本であった。「ノストラダムスの大予言」の扱いが現在どうなっているか良くわからないのだが、そんなことにかかわりなく楽しめる本だと思う。

9/25 
最後のストライク 津田晃代 幻冬舎文庫
たまにはこういう本も読むのである。
32歳の若さで早逝した広島の津田の奥さんが書いた闘病記。普段怪奇小説とかミステリーとか、人が殺されたり苦しんだりする本を好んで読んでいるが、たまにこういう事実をもとにした生きた人間の本を読むと心が打たれる。本書を読むと病気が怖くなり、死というものについて考えてしまう。それにしても著者の晃代さんのがんばりには敬服するしかない。
それにしても津田はいいピッチャーだったな。

9/29
もう一度投げたかった 山登義明・大古滋久 幻冬舎文庫
たまにはこういう本を読むのである。
上記の津田についてジャーナリストの目で客観的に見て描いている。なお本書は基本的にNHKで放送された同名の番組の
単行本化である。奥さんの手記も引用されているため、なんとなくだぶる部分もあるが、観点が違うため、読後感も異なる。

9/30
死霊の館 ケイブンシャ ジーンズブックス
ヒッチコック選と称しているが怪しげである。収録作は以下の通り。死霊の館(RAブレイアー)、子供は嫌い(Jホールディング)
静かなる殺人(Eエリス)、とかく女は(CBジルフォード)、プラン19(Jリッチー)、夜の声(Rコルビー)
まあいってみればヒッチコックの好きそうなすこしひねった短編(ショートショート)を集めたもの。表題作は純然たる怪奇小説で他はミステリー。ただしそれぞれ感想を書くほどのことも無い、短い作品のため多少食い足りなさが残るのはやむを得ないところか。
集中「死霊の館」「夜の声」がまあよかった。
このシリーズは知っている限り4冊出ているはずで比較的見かけることが少ない。内容的には無理して集めるほどのことは無いと思う。

10/7
生き埋め ジェラルドAブラウン サンケイノベルス
所はカリフォルニア。14日間も降り続いた雨のため、ついに土砂崩れが発生し、巨大スーパーマーケットがのみこまれた。
中には238人の買い物客が・・。という話しで「ポセイドンアドベンチャー」を地面に沈むスーパーマーケットに置き換えた感じ。
パニック小説はわりあいそうだが、予想された通りに展開されていくことが多いため、キャラクターの造形や細部がものをいうが、
この作品に関してはまあまあというところ。キャラクターの書き分けはやや類型的な感はあるが、それでもレズビアンのカップルや映画女優等を混ぜながら、多様にしようとはしている。それにしてもキャラクター造形に力をいれるにしても70ページもかけてひとりひとり紹介されるのは少々退屈で最初全然のれなかった。著者の作品はその後新潮文庫や扶桑社ミステリーで何点か紹介されている様だ。

10/11
謎のキャンパス殺人 ケイブンシャ ジーンズブックズ
収録作 謎のキャンパス殺人(CBジルフォード)、引き裂かれた新聞広告(Hスレッサー)、虎の吠える日(ジャック・ウェブ)
ニセ札(フランク・シスク)、人知れぬ楽しみ(ミッチェル・ブレッド)、隣の視線(リチャード・ハードウィック)
前出の「死霊の館」同様少しひねったミステリショートショート集といった感じ。意外な結末の「ニセ札」、しゃれた結末の「引き裂かれた新聞広告」がいいか。ヒッチコックの幕間言はやはり日本の諺にふれていたりして怪しい。編集者が書いたのじゃなかろうか。
でも各作品の原題やコピーライトまで書いてあって変に律儀。ちなみに訳者名の明記はない。

10/12
蜂 ケイブンシャ ジーンズブックス
収録作 蜂(アーサー・ポージス)、証拠は夢にきけ(CBギルフォード)、冷凍庫14(トルメイジ・パウエル)、死に神は棺桶の中(ジョナサン・クレイグ)、殺人訪問(ロバート・コルビー)、スペードの2(エド・ラッシー)
前2冊と同様のミステリー集。冷蔵庫14は怪奇小説でまあまあ。スペードの2はユーモラスな犯罪小説で楽しい。集中一番長い殺人訪問は今で言うところのサイコスリラー。バラエティーには富んでいる。

10/13
蝿人間 ケイブンシャ ジーンズブックス
収録作 蝿人間(シド・ホフ)、桃(ジャック・ウェブ)、著作権(エド・ラッシー)、命の値段(フレッチャー・フローラ)、バーゲン狂(ジェームズ・ホールディング)、掟(ジャック・リッチ)、警官に手を出すな(ジェームズ。ホールディング)
ショートミステリー集。蝿人間はちょっとブラッドベリっぽい幻想小説。警官に手を出すなは短いながらも警官同士の友情のようなものが感じられ印象に残る。他命の値段は奇妙な味でまあまあ。
これで全4冊終わったわけだが、1ページ14行しかない上150ページとページ数も少なく、総体的に観て非常に軽いミステリー集という印象であった。4冊で1編をあげるのは難しいが「蝿人間」「死霊の館」等が印象に残った。入手はしずらいが、あえて入手するほどのものではないと思う。

10/17
スクワーム ジェラルド・カーティス
一言で言うとゲテモノ本。スクワームとはのたくるというような意味だそうである。つまりはミミズののたくる様子だ。何でかさっぱりわからないのだが、高圧電流を浴びて狂暴化するミミズに襲われるという話。概ね考えた通りに話はすすんでいく。登場人物の一人がミミズに食われながら生きているというのはちょっと映画の演出を意識しすぎではないかな。ところで○○○が何故助かったのか全然わからない。作者は自分の書いたことをきちんと把握しているのか?でもミミズの海というのは想像するとものすごいものがある。
ところで映画は見てないのだけど、ノベライズなのか原作なのかはわからないこの小説を読んだ限りではあまり神経を逆撫でされるような不快感はなかった。想像力が貧困なせいかもしれない。いままでのサンケイノベルスでは一番薄っぺらな感じ。(本の厚さではないよ)

10/19
解体諸因 西澤保彦 講談社文庫
死体を解体する々の要を集めた連作短編集。何の予備知識もなく読んだため、始め短編集かと思ったが、最初からの意図かどうかは不明だが、最後で強引なまでに有機的なつながりを持たせることによって、一種の長編ともいえるようになっている。また最後のある部分で、最初の推理と異なる解を提示することによって、結果的には推理小説の持つ一面性(絶対的な推理とは幻想であり、ある一面の見方ににすぎない)を指摘しているようで、興味深かった。
内容的には、あとがきでいみじくも著者が書いているように、ロジックのためのストーリー、パズルのためのストーリーとなっており、荒唐無稽というか、ある意味、冗談ミステリーともいえる作品となっている。真面目に読むにはあまりにもトリック色、パズル色が濃いが、これも一つのミステリーの一形態なのだろう。なお探偵役等の登場人物は一応ほぼ共通しており、同一の世界観の中に描かれているようだ。読後感は口当たりはいいが、強い印象は残さない。料理で言えばあっさり和風味付けのサラダスパゲッティ。

10/25
夢野久作全集1巻 夢野久作 ちくま文庫
全集の1巻。杉山萠圓名義で発表された「白髪小僧」をはじめプレ夢野久作時代の童話作品を収録。実際はこの巻に収録された以外に三一書房版の全集や葦書房版著作集に収録されているものもある。「白髪小僧」は書き下ろし長編童話で複雑な構成をもっているが、ストーリー的には全くの未完。ただ皮相的な読み方しかできないため、難解とは思わず、メタフィクション的な部分等を楽しく読んだ。なおビアズレイも彷彿とさせる挿絵は夢野久作本人のもの。単行本の復刻版がほしくなってきた。他の童話も長いものほど面白い。教訓臭が鼻につくものもあるが、発想的には奇想が多くて楽しめる。空想的な方向の作者の想像力が強く発揮された作品群とも言えるかもしれない。やはり白髪小僧以外では、豚吉とヒョロ子、ルルとミミが面白い。ルルとミミは最後の童話作品であるが、叙情的な美しい作品で目をひく。豚吉とヒョロ子はスラップスティックコメディという感じでわくわくする。
多くの作品(特に白髪小僧)の共通点として夢へのこだわりが強く感じられるのも特徴かもしれない。

10/28
光車よ、まわれ! 天沢退二郎 ちくま文庫
国産ファンタジーの傑作。いちいちあげるときりが無いが、文章中にもところどころ詩人らしい表現も見られしびれる。みずたまりに映り込む裏側の世界や、薄暮の作品世界は圧巻で、思わず幻想文学誌のインタビューを読みなおしてしまった。水が悪のイメージで描かれるのは珍しいような気がする。結局のところ、なぞが全てとかれるわけではなく、国家権力を象徴するような敵の1方の正体はわからないままだ。また登場する子供が死んでしまうところも児童文学としては異色ではないか。最後もあまりハッピーエンドとはいえない。
波長があうというのか、ひさびさに傑作と思う児童文学であった。(大人が読んだほうが面白いのではないかとは思う)
温存していた三つの魔法三部作も読もうかな、という気になった。ところで読んでいる時に「南総里見八犬伝」を連想していたのだが解説でも三木卓がふれていた。思うところは同じというところか。ただ解説中の結末の解釈はよくわからなかった。結末を読みなおしたがいまいち解説でいうようには読み取れなかった。読解力不足か。

11月2日
霧 ジェームズ・ハーバート サンケイノベルス
ハーバートノ第二作。今回の恐怖の対象は霧である。この霧はそれを吸いこむものをことごとく狂気にいたらしめるという恐ろしいもの。
主人公はその霧を吸いこみ、回復したため免疫がついたため、狂気には陥らなくなった。その主人公の目でそこではさまざまな狂気が
描かれていく。霧の正体は半ばで明らかにされなんとなく拍子抜けではあるが、それでもロンドンが狂気に侵されていく様は、黄色の
霧を通して描かれる情景描写とあいまって、読むものの心を寒からしめる。
やはり「猫」とか「スクワーム」のような作品は足元にもおよばない、エンターテインメントとしてのうまさがある。
ネタからいえば表記のようにSFといえるかもしれないが、人間の狂気に落ちていく様をある意味嬉々として描くようにも思えるこの
作品に関しては、やはりホラーという他はないのである。

11月8日
捜査 スタニスワフ・レム 早川文庫SF
いちおうSFに分類されているのだが、SF的な要素はあまりない。無論状況的には死体が消えたり、死体が動き出したりするのだからSF的もしくは怪奇的な要素はある。で、その謎を主人公の警察官が捜査にあたるわけだが・・。
枯草熱(サンリオ)の時は結構素直に推理小説として読めたのだけど、こちらはアンチミステリー色がかなり強い。これを読んで推理小説やSFと思う人は少ないのではないか。どちらかというと人間の認識や思考の限界をテーマにした思弁小説ということになるのかもしれない。
ただし舞台をイギリスにした理由がよく判らない。無論意味はあるのだろうが。

11月14日
他人の城 河野典生 講談社文庫
失踪した少女を捜す主人公の小説家という骨格のハードボイルド。新宿のヒッピー(死後だ)等を脇役にしながら世間のわくからはみ出た若者たちを共感を持って描いている。風俗を描いている分、時代を感じさせてしまうのは仕方がないが、文体がしっかりしているので古びた感じはあまりしない。殺人もあって推理小説的な部分ももりこんではいるが、あくまで脇役だ。
最後につまらない感想だがハードボイルドの主人公はいつも寝不足である。あまり良く寝る探偵はいない。そういうもんか。

11月19日
この子の父は宇宙線 新田次郎 講談社
4編を収めるSF短編集。全集にも収録されなかったように思う。目録でもあまり出ないため入手はかなり困難。
もう少し易しいSFかと思ったが、意外にきっちり書いており、SFマガジンも出ていない時代にこれだけのものが出ていたのには正直驚く。
作者はたしか気象台か何かに勤務されていたように思うので、そのせいかどうかは知らないが、科学的な知識へのこだわりは感じられる。アイディアそのものは、(特に宇宙物)今となってはナンセンスなのであるが、当時はどう受け取られたのだろう。
ただ作品そのものは今でも十分鑑賞に堪えられる力作といえ、再刊が望まれる。
でもこれだけの作品を書いたのだから他にも作者にSFがあるのではないかという思いにかられる。それも知りたいところである。

11月23日
犬 フィッシャー KKベストセラーズ
ストーリー的には飢えた犬の群れに襲われる家族の話といえばそれですんでしまうし、それ以上説明のしようもない。
それなりのリーダビリティはあるので、読むのに苦はないが、予定調和的にストーリーは展開するため先が読めてしまう。兄弟の葛藤とか、夫婦の葛藤とか登場人物も家族以外に配して幅を持たせようとしているのだけど、それが有機的にかみあわないため、なんとなく中途半端な印象がある。例えば被害者の老夫婦の妻などは結局何で登場するのかわからない。
犬を題材にしてもキング等とは質量ともにやはり比較にはならない。
ただし幻想文学別冊の「モダンホラースペシャル」にサンケイノベルス「犬」と同工異曲という記述があるが、これは犬が人間を襲うという根本的な部分は共通だが、扱い方は全く異なるので、違うと思う。
サンケイ「犬」は主人公の心の葛藤が中心であり、扱いも深く犬はその脇役にすぎない。ハードボイルドや冒険小説の様相もなくはない。
また犬の描写も丁寧でリアリティがある。なにより犬に個性がある。まあ文学的なのである。
逆にKKの「犬」は家族が中心ではあるが、扱いは表面的で浅く、同じく犬の描写も表面的である。アメリカチックな軽エンターテインメントである。性格が違うので比べるべくもないが、サンケイの方が小説としては数段優れているように思う。
ただしどちらも恐怖小説の範疇にはなかろう。あまりにも現実的過ぎる。

11月25日
「朝びらき丸、東へ」 CSルイス 岩波少年文庫
ナルニアの3巻。2巻を読んで数年振り。内容的に全体の流れから見るとサイドストーリー的な感じがある。でも物語的には航海冒険譚でもあり、ラブレーを例にとるまでもなくかなり面白い。個々の島については作者の想像力が問われるところではあるが、これも工夫がこらされている。
最後の世界の果ての部分はどうなることかと思ったが、割合とあっさりエンディングとなった。
評価の定まった名作でもっと早くよむべきなのだが、まだ3巻。まだまだこれからだな。

11月30日
「惑星メラーの麻薬」 グレゴリイ・カーン ハヤカワSF文庫
キャプテン・ケネディシリーズの4巻目。ひさびさなので、前の巻の内容はほとんど覚えてないが、あまり良い印象ではなかったようである。で、今回は人間の獣性をむきだしにする麻薬をめぐるケネディの活躍というところであるが、やはりもうひとつ。ケネディが無個性なのはこういうヒーローものにつきものなので、いいとしても、あきらかにキャプテンフューチャーの引き写しの登場人物達が今回は動いてこない。ストーリーはあって展開していくのだけど、それを追っているだけという感じ。最後に敵につかまってから少しだけもりあがるけれど、全体的にはどうにも盛り上がりに欠ける。

12月2日
「第三水曜日の情事」 小池真理子 角川文庫
作者の処女作品集ということになる。恥ずかしながら雑誌掲載作品以外で読むのははじめて。ショートショート集で器用に書いているのだが、習作集という感はまぬがれない。まず、解説で阿刀田高も指摘しているのだが、舞台をアメリカにしているところがしっくりこない。現実的ではなくやはり観念的なアメリカという感じがする。銃を安直に出せるため、殺人が簡単に書けるということもあるだろう。日本では民間人は普通持てないから、殺人方法が限られてくる。するとストーリーもそれだけ制約を受けるということだ。
とはいえきちんと起承転結がはっきりした、とてもわかりやすい作品集のため、一般読者は面白いかもしれない。文章もよみやすい。
これから刊行順に読んでいこうと思うが作品の変化が楽しみではある。
あと特筆すべきは少なくとも小説に関してはほとんどの作品(文庫)は絶版になっていないようであること。売れているんだねえ。

12月7日
「砂上の影」 久野四郎 ハヤカワ文庫JA
再読であるが、完全に忘れていた。作者は昭和40年代前半福島正実編集長時代にSFマガジンで作品を発表していた人。
長編は無くこれが唯一の作品集である。なお読んだのはSFシリーズで出ていたものの復刊である。
内容的にはアイディア重視のオールドタイプSFか、もしくは幻想・怪奇小説もしくは奇妙な味というところだろうか。前半は夢をモチーフにしたものが多く、後半は短めのアイディアストーリーが多い。ディックの現実崩壊感覚になぞらえていた評があったが、前半の作品は確かに近いものがある。つまりは現実世界の曖昧さ、不確かさをついてくるのだ。なお作品はどれも水準を超えており、入手は容易とは言えないが、かなりお得な作品集と言える。初版刊行から30年たったSFでいまなお面白さを失っていないのはたいしたもので、SFマガジンのバックナンバーをあさって単行本未収録作品を読んでみようかという気になった。
なお森優に編集が変わってからは作品を発表しなくなってしまい、残念なことである。

12月8日
「ポイヤウンベ物語」 安藤三紀夫 講談社文庫
ユーカラの「朱の輪姫」を元にしているということである。ストーリー的には神話的な和製ヒロイックファンタジーというところ。
神々が人間と同レベルで登場したり、戦争が果てしなく続いたりするが、描写的にはあくまで神話的、民話的にあっさりした文書でかたづけられている。ユーカラになじみが無く、登場人物や土地の名前もアイヌ語なので、覚えにくいところはある。二つも賞をとった作品だけあって破綻なくまとまっていて、少々説教臭さは残るものの、力強い挿絵とあいまって読むものをひきつける魅力に満ちている。

12月15日
「居場所もなかった」 笙野頼子 講談社文庫
変な小説である。一見私小説風であるが、それがどんどんデフォルメされ、崩れ変容していく。妄想とも幻想ともつかない家探し小説。作者を局所肥大化した主人公を始め、かなり作為的なデフォルメであろう。主人公の目を通して展開するため、フィルターを通して歪んだ世界を見ているようである。エンターテインメントでは無論無いのだが、かといって普通の純文学とは一線を画している。作者の作品は実は初めてなので、これからどういう風に作風が展開していくのか、楽しみである。(実施はこの作品より前に相当数の作品はあるのだが)
純文学的な読み方方では、バブル期のきちがいじみた地下の値上がりや、不動産屋の横行等があり、風刺小説の側面ももっている。
読み手を選ぶかもしれないが、傑作に近い佳作と思う。少なくとも同じような作品は他の作家には書けないであろう。

12月23日
「パーフェクト・ブルー」 宮部みゆき 創元推理文庫
宮部みゆきの処女作。語り手をいぬにした意図はよくわからないし、有機的に機能しているとは正直思えない。ただしストーリーテリングは非凡で処女作とは思えない書き振り。シリーズ物になりそうなキャラクターだが、シリーズになっているのか?
解決は意外であるが、どの程度複線がはってあったのかミステリ素人の自分にはわからなかった。とは言え、キャラクターを主眼にした小説と言うのは読みやすく、溶け込みやすい。万人に受ける所以か。結論としては水準以上のミステリーだと思う。
次が楽しみである。