2000年度読書日記

これ以降は買書日記に組み入れることにします。

新耳袋 木原浩勝+中山市朗 扶桑社
実話怪談集である。タイトルの由来はいうまでもなく、江戸時代の奇談集。
どれも短くて、実話という形式をとっているためか淡白な味わい。植物怪談とか松谷みよ子の現代民話風のものも含まれており、いわゆるはやりの怪談本とは一線を画しているようだ。
全部で100話が収録されており、一晩で読むと怪異が起きると書いてあるけれど、遅読の自分は当然一晩では読めませんでしたので、何もおきませんでした。
淡白な味わいなので読み応えという点ではもうひとつだけど、バラエティーには富んでいてあきさせない。
もう一つ特筆したいのが造本と構成。造本はカバーの表の真中から背を回って裏表紙へ切りこみが入っており、本体の色が覗くしゃれた造本。また随所、それも読んでいる話の途中でいきなり見開きの真っ黒い写真が目に飛び込んできてビックリする。怖い話だとけっこうドキッとするものがあり、なかなかの演出だ。いまはメディアファクトリーから本書の再刊を1巻として現在まで第4集まで出版されているが、この造本と構成は再現されていないので、元版で読むのにも意味はあると思われる。また新装版を所持していないので詳しくはわからないが、全99話となっているようである。

ひとりで歩く女 ヘレン・マクロイ 創元推理文庫
翻訳では「暗い鏡の中で」が代表作といわれており、書誌的には「幽霊の2/3」や「殺す者と殺される者」の入手難が話題になる。
後者2冊は残念ながら持っていないけど、いつかは読みたい作品。(買いたいじゃないよ)
シリーズ物もあるが、これは単発のサスペンススリラー(死語かな?) 主人公の手記からストーリーは始まる。
滞在していた家の主人から荷物を託され、ひょんなことからそれが10万ドルの札束とわかる。主人公は当惑し何とかしてその札束を運ぼうと決心する。しかし滞在していた家で代筆を頼まれた庭師そっくりの男が船の中に出現した。命を狙われているのかもしれない・・・。
前半は船中で展開し、後半は舞台がワシントンに移る。そして最後に明らかになった今回の事件の主役とは・・。
背表紙や帯ではやたらに圧巻のスリルと見事な伏線の数々と、大井にもちあげているものの、自分は積極的に頭を使って推理するというような読み方はしないので著者の筆にのって運ばれていくだけであるから、伏線とかはさっぱりわからず。
スリルはまあまあかな。おもしろいことはおもしろいけれど、そこまで褒めるほどの作品とはちょっと感じられず。


メグレと殺人者たち ジョルジュ・シムノン 河出書房新社
河出のメグレシリーズ1冊目。50冊揃ったので読み始める。こんな話。
いつもながら神経質な夫人の訴えを聴いてうんざりしているメグレのところに男から電話がかかってくる。数人の男からつけねらわれているという。メグレはそれがいたずらとは思えない。部下を派遣して男を追わせるが、男はその後何度か電話をよこした後、消息を絶ってしまう。
そしてその日の深夜、コンコルド広場で死体が発見される。身元を確認するすべはないが、どうも電話の男らしい。そしてメグレはその男の正体と、犯人たちを追い始める。やがて男の姿が浮き彫りになってくると同時に犯人達の意外な正体が明らかになる。
警察小説でやはりキャラクターが立っている。脇役もそれぞれカラーがあり、パリの空気もとてもよく感じることが出きる。最後は少々あっけない気もするけれど、メグレと共に時間を過ごしているような感じがしてくるようにじっくり書き込みがされているため、緊迫感がある。
謎解きが主のミステリーではなくストーリーとキャラクターを楽しむタイプで、推理する楽しみはあまりないのかもしれないが、楽しめる作品ではあろう。

不老不死の血 ジェームズ・E・ガン 創元推理文庫
「新しい血」「供血者」「医学生」「不死」の4篇の中篇からなる連作で全体で一つの長編になっている。この本は後に怪奇部門に編入されたと記憶しているが、内容的には完全にSFである。構成は次のようになっている。輸血をすれば回春できる血を持った不老不死の一族が発見される導入編とも言うべき「新しい血」。行方不明となった血の持ち主を発見したエージェントのストーリーである「供血者」。一気に時代が変わって医療組織が勢力を持って、世界を支配するようになった世界を描く「医学生」。これは発表が一番早い。最後は展開編ともいうべきストーリーで、本当の不老不死とは何かということが語られる。
厚木淳が解説でも書いているが、年々医療が発達し、医療に依存しつつある現在の人間世界を風刺したとも言える。そしてこの小説の世界では莫大な医療費をとられ、またそれを払うために人は働き、医療費を払えない人間達は、一握りの医療を受けられる人間の臓器提供用の材料となってしまう。
これは昨今の医療費の高騰と、介護保険に見られる老人問題を彷彿とさせ、今こそ再評価がされるべきであると思える。
SFとしては何とも科学性に乏しく、ラストの部分の何ともアメリカSFらしい終わらせ方等気になるところはあるけれど、時代的にはこういったテーマの作品もまだまだ読まれて良いと思うのだが。
蛇足だが、確かに発送的に吸血鬼をモティーフにしたところはあるけれど、何故怪奇部門に編入されたかは理解に苦しむ。
本書はミステリー部門比べると比較的入手容易な創元推理文庫のSF部門では入手難の部類に入る。自分は10数年お目にかかれず、ネット古書店でやっと購入を果たした。昔はこの辺の文庫は目録等でも相手にされていなかったところにも原因はあると思うが。

ゆうれい家庭訪問 三田村信行 教育画劇
息抜きに読んだ児童小説。かなり年少むけなので、あっという間に読める。ストーリーはタイトルそのままで、死んだ子供の学校があり、そこの先生に抜擢された、生身の人間の先生が各子供(の幽霊)の家庭訪問をするというもの。まあ大した意味のあるストーリーではない。
死んだ子供の学校と言うのは、冷静に考えてかなり悲惨な設定だし、訪問する家庭も子供の死の為に離婚した夫婦等もでてきて、著者らしいところも垣間見せるものの、基本的にはハッピーエンドである。永島慎二のとぼけた絵も悲惨な設定を感じさせないような理由になっている。でもこんな設定の本を読まされる親はあまり良い気持ちはしないであろう。
まあ、そこが作者らしいところかもしれないが。

透明少年 加納一郎 ソノラマ文庫
一応SFに分類されている。著者は大人向けではミステリー、サスペンスがほとんどであるが、子供向けはSFが多い。それもドタバタとしたSF(一応ユーモアSFと惹句には書かれることが多い。
で、この作品だが、何だかわけのわからないうちに一定時間透明人間になるものを作ってしまった主人公の活躍を書いている。これがSFといえるのかどうかは、首肯しない人も多いのではないか。たしかにユーモラスに書こうとして、ギャグを挿入したりしているが、自分には今一つ笑えない。読みやすいので、あっという間に読み終わるが、あーおもしろかったというより、あーおわったかという感じ。
もしかすると小学生位には面白いのかもしれない。じゃないと作者の作品がソノラマ文庫から40冊近く出版されている説明がつかない。

11枚のとらんぷ 泡坂妻夫 創元推理文庫
著者の処女作で元版は幻影城から出版されている。真中に短編小説集が挟まっているという凝った構成で、かなりこった構成でまずそこでうならされる。それぞれの短編も奇術小説という珍しいもので、面目躍如というところ。普通はあまり触れることの無い、奇術に関する説明や薀蓄も興味深く、それだけで読んでも十分面白い。処女作と言うのが信じられない完成度である。
ストーリーは主人公の所属する奇術愛好クラブで実施した奇術大会でメンバーの一人が殺されるという事件が発生する。その死体の周りには何故かいくつかの物がおかれてあり、それがこの小説の探偵役となる人物の書いた短編小説集とことごとく関係しているというのだ。
そこで小説的にはその短編小説集が挿入されるという仕組み。
この小説はミステリーが苦手な人でもきっと面白く読めるに違いない。

飛行士の話 ロアルド・ダール ハヤカワミステリ文庫

ハヤカワミステリ文庫から出ているが、かなり広義に解釈をしないとミステリーの分類には入らないだろう。短編集で単なる戦記のようなものがあったり、はたまた死後の世界?を描いているかのような幻想短編があったり、多彩である。デビューからの作品を集めているので、戦争に関する奇談が多いのは(スタートが戦争体験のレポートのようなので)仕方がないだろう。
ベスト作品はちょっと選びにくい。解説ともつかない巻末の阿刀田高の短文では「猛犬に注意」をあげているが、自分はそれほど良いとは思わなかった。
総体的にはまずまず楽しめる短編集ではあるが、全てにおいて「奇妙な味」と言うわけではないから、あまり中身に関して先入観無しに読んだ方がいいかもしれない。

創生の守護神(上下) ロバート・ボーヴァル&グラハム・ハンコック 翔永社
何でこんな本をよんでしまったのだろう。内容的にはスフィンクスの意味を、だらだらと解明(実際は解釈)していくと言う流れ。最後のビジョンにはおっと思わせるものがあるが、いかんせん冗漫だ。この半分の長さで十分だろう。