日本語パッチと著作権の考え方




なぜ日本語パッチなのか
日本語パッチの作り方は、まず英語版をResEditで日本語化します。そのできた日本語版と英語版と比較して差異の部分をパッチファイルにします。この作業は結構面倒で、さらにシェアウェアの場合はバージョンアップが非常に頻繁に行われるので、ひどく煩わしいのです。
また、ユーザー側から見ても、パッチの場合はオリジナルのプログラムをどこからか調達しなければなりません。ユーザーからはせっかくやろうと思ったのに、パッチ作業ができないとか、パッチしたプログラムが動かないとかの報告も寄せられます。
そういう意味でも私としては、作業も短く、動作が保証されている日本語版を配付するほうがよほど楽なのです。

私も初めはそうしたいと考えました。
しかし、ある原作者に日本語版の配付の許可を依頼しましたところ、「自分としては日本語が読めないので、日本語版の品質が判断できない。オリジナルの品質が損なわれていないかどうか保証できないので、パッチならばいいよ」という返事が来ました。そこで日本語パッチという方法を思い付いたのです。

確かに、世の中にはひどい翻訳物というのがありますね。TitBits日本語版、この情報は私も楽しみにしていますが、この日本語はあまり褒めたものではありません。まあボランティアでやっていただいているものですし、内容には価値があるので、日本語の質にまでは文句を言う筋合いのものではないかもしれませんが、世の中には平気で誤訳や全くわけのわからない訳というものが少なくありません。市販のパソコンソフトの日本語版にもひどいものがありますし、プロが訳してると思われる雑誌や単行本の翻訳にもひどいものがあります。これではオリジナルのものまで誤解されたり、つまらないものと考えられても仕方ありません。

というわけで、オリジナルの作者にすれば、翻訳されたものが、同じ品質かどうかは非常に気になるわけですが、それを判定する手段が難しいのですね。ですから、出版物に関していうと、名の通った取次店を契約するとか、学者なんかであれば自分が信頼している日本人の学者に監修を頼むとかするわけです。

私は英語の翻訳に関してはプロのレベルだと自認していますが、自分でそう思っているだけで相手はわからないわけですね。ですから、今回の件に関しても、相手からは「あなたとは付き合いもなく素性もわからないので、自分の翻訳を任せられない、パッチファイルならば自分の責任ではないから許可する」という趣旨のようでした。その人は自分のプログラムのRead Meに「自分が翻訳した以外の外国語のもにについては責任をもちません」という一文を入れています。

私としても、オリジナルの作者と何回も交渉して時間を費やすよりも、折角作った日本語パッチを早く多くの人に使ってもらうほうがためになると考えましたので、それ以来、この方式をとることにしました。

もう一つ、日本語版を作る場合、メニューやダイアログだけでなく、アラート(警告文)やヘルプ(使用説明)まで全部翻訳するかという問題があります。製品版はもちろんですが、シェアウェアでも日本語版と銘打つかぎりは完全に翻訳する必要があるでしょう。しかし、私の場合は、まあ個人的趣味でやっているので、自分にとっては必要ない所までは時間をかけたくないというのが、正直なところでした。

それから、私の日本語版はResEditでリソースの一部を書き換える方式をとっていますが、プログラムによってはデータの部分に英語が入っているものもあり、その部分はデータを入手しないかぎり日本語化できません。また、フォントの設定がリソースではできないので、一部の日本語が文字化けを起こし、FontPatchin'のお世話にならなければならないところがあります。製品版であれば、この部分も含めて完璧にする必要があります。私としては、そこまでは手が回りません。

というわけで、私にとっても日本語版を出すよりは、日本語パッチの方が気楽に出せるのです。パッチというぐらいですから、一部に補強を与えるだけで全体を変えるわけではないのですから。

著作権問題
パッチファイルにしたもう一つの理由はこれならば原作者の著作権には影響しないだろうとかんがえたからでした。私のパッチプログラムはそれを起動すると英語の文章が日本語になって見える眼鏡のようなもので、原文に直接手を加えるわけではないので問題なかろうと考えました。それに個のパッチ単体では動かず、ユーザーは必ずオリジナルのソフトを手に入れなければなりませんから、シェアウェアの権利はそのまま守られると考えました。

しかし、昨年の10月にこのホームページで日本語パッチの配付を始めてから、多くの感謝や激励のメールに混じって、何人かの方々から、多少不快な非難や抗議の手紙をいただきました。こういうものを作者の了解もなしに勝手に配付するのはけしからんというものでした。

私はあくまでも、善意で、せっかく優良なシェアウェアが英語であるがばかりに日本人には十分に活用してもらえない、もったいないものだと感じ、日本語版の作成を行っているのです。これにより、シェアウェアの支払いも確実に増えると思いましたので、原作者からは感謝をされこそすれ、まさか非難されるとは思ってもみませんでした。
大半の原作者はこのバッチには大した関心を払ってはくれず、どうでもいいですよという態度だったのですが、一部の原作者は何を誤解したのか、金を要求してくる人もいました。残念ながら、その人はどうもこのシェアウェアで生計を立てている人のようでした。

私は自分のやっていることは正義であるとの信念をもっていたのですが、やはりここは専門家の意見も聞いてみようと思い、私の友人の法律専門家に相談してみました。
彼の見解では、「パッチといえども原作の一部または全部をもとにしているのだから、原作者の著作権を侵害している。但しそれにより、私が利益を得ているのではなく、反対に原作者に利益を与えているのであれば、訴えられることもないし、訴えられても損害賠償にはならないだろう。」というものでした。

現在は基本的に配付を開始する前に、原作者へ報告をしていますが、かならずしもコンタクトできない場合もあり、黙認という形で出しているものもあります。
私としては、結局は、原作者にとっても、ユーザーにとっても利益をもたらすもだと思いますので、今後も続けていきたいと考えています。

本件に関するご意見があれば私までお寄せください。

1997.5.13. 
Harry Ono
yingming@can.bekkomae.or.jp