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ISDNと56Kbpsモデムのどっちがいいのか?

作成:1997年6月21日

NTTは毎日のように「ISDN、ISDN、インターネットするんだったらISDN」という宣伝を行っている。たしかに64Kは28.8Kのモデムよりは速そうだ。しかし最近は56Kモデムというものが出てきたらしい。ISDNにしようかと考えていたユーザーにとって、56Kモデムとはいかなるもので、どういうメリットがあるのだろうか?

56Kbpsモデムについて

モデムの歴史ぱ高速化の歴史

1SDNが普及するまでは、パソコンが外部とネットワークをつなぐにはモデムを使って一般の電話回線を利用するのが一般的だった。モデムはモジュレータ・デモジュレータの略だが、これはパソコンから出てきたデジタル信号を電話用の音声信号に変換(モジュレート)し、反対に音声信号をデジタル信号に再変換(デモジュレート)するための道具である。
モデムは速度面で急速な進化を遂げてきた。データの転送能力を示す単位としてbps(ビット・パー・セカンドの略。1秒間に送受信できるデータ量を示す)があるが、私がパソコン通信を始めた80年代中ごろはまだ300bpsが主流であった。その後1200、2400、4800bpsとなり、パソコン通信が成熟期を迎える93年頃には9600bpsまで高められた。しかしこの時点でも、パソコン通信デ扱う情報は文字が中心だったので、現実には1200bpsでもそれほどの不自由はなかった。
パソコン通信でもソフトのダウンロードや画像、音楽データなどのダウンロードが一つの用途になってくると、もっと速い送信が望まれるようになった。さらにインターネットが普及の兆しを見せはじめると、画像がオンラインで表示できることが必要になってきた。そこで、モデムが持つエラーの自動訂正機能やデータ圧縮送信機能などに手が加えられ、信頼性、通信効率、速度のさらなる向上が図られる。その結果、モデムの速度は14.4Kbpsを越えて28.8Kbpsにも達したが、そのあたりで電話回線の通信能力に限界が見え始めた。もともと電話回線は音声を送るのに都合よく作られている。そのため、33.6Kbpsモデムが登場すると、帯域幅(データが流れる幅のこと)の問題から「すでに限界に達した」という意見が大方になった。しかし96年になると、一部のモデムメーカーが、限界と思われたその通信速度を1.6倍も上回る56Kbpsの技術を開発。97年には、多くのメーカーが56Kbpsモデムが発売されるに至った。

56Kのスピードの秘密

56.6Kbpsがデータ通信速度の限界とする説は、アナログ電話回線を使うことを前提としている。しかし今の電話回線網は急速にデジタル化されつつある。高い信頼性と高速なデータ通信を可能にするデジタル回線を電話局側が用意することで、雑音の少ない通話ができる。データの帯域幅も広がるため、モデムを使った場合も、高速かつ安定したデータ通信ができる。

ところで、ISDN公衆電話からかかってきた電話は、これまでの公衆電話よりもきれいに聞こえることに気付いているだろうか?回線網がデジタル化されても、発信者と受信者の両端がアナログ回線では、アナログとデジタルの変換時にノイズが起きて音質の改善効果が少なくなる。どちらか一方がデジタル化されれば、変換の回数が滅り、音質は大幅に上がる。こればモデムも同じで、一方がISDN回線につながっていればより良好なデータ通信ができる。今でば、プロバイダーとNTTを結ぷ回線のほとんどはデジタル化されており、アナログ部分は交換機から自宅までとなっている。そこでデータを、自宅に一番近い交換機までデジタル回線の帯域幅を使って送り、その勢いでアナログ回線に通す仕組みが考えられた。これを使うと、プロバイダーから自宅まで(下り)のデータ転送速度を56Kbpsまで上げることができる。ただし上り方向のデータ転送速度は帯域を確保できないので、56.6Kbpsが上限となる。下り方向だけが高速なのは不合理に思えるかも知れないが、実際の情報量ではソフトやデータのダウンロードが電子メールやメッセージの発信を上回るので、実用的な対応といえる。56Kbpsモデムは、つなぐ相手が56Kbpsに対応するサービスを行っていないと最高速で通信できない。ただし56.6Kbpsや28.8Kbpsなど、これまでのモデムを相手に通信することもできるため、高速通信を行わないのなら相手のモデムを選ばないという面もある。

56Kモデムの課題

56Kモデムはある意味では画期的な技術である。TAに較べメリットが多く、ISDNに変更しようとしていたユーザーの多くが、ちょっと待とうという気になるものである。
しかしまだ若干の問題がある。

2つの規格-x2とK56フレックス

現在56Kbpsモデムの規格は2つあり、全く互換性がない。
ひとつは大手モデムメーカーの米USロボティクス社(現スリーコム社)が提唱する「x2」方式で、もう一つは米ロックウェルインターナショナル社と、業務用モデムメーカーの米ルーセントテクノロジーズ社が提唱する「K56flex」方式だ。
x2どちらの方式も機能や性能上の優劣はそれほどない。x2方式では、モデムの機能をDSP(デジタル・シグナル・プロセッサーの略)と呼ばれるチップで行っており、モデムの機能はファームウエアとして書き換えが可能だ。従って将来別の規格が採用された場合でも、簡単にアップグレードできるのが特長である。K56フレックス方式の場合、将来モデムの機能が向上した場合はモデム本体を買い替えなければならない。

2つの規格には互換性がなく、ユーザーもプロバイダーもどちらかの方式を選択せざるをえない。提唱メーカーは、自らの規格を国際標準とするべくITU-T(国際電気通信連合)に提案しているが、規格が正式に決まるのは98年半ば以降になるだろう。それまでにいかに採用メーカーを増やし、デファクト(事実上の業界標準)を確立するかが勝負になっている。
K56開発においてはUSロボティクスが先行していたため、現在発売されているモデムはx2規格のものが多い。またプロバイダーで56Kに対応しているところはほとんどがx2方式だ。しかし、現在、x2方式の採用を決めているのはソニーだけで、K56フレックス方式の採用を決めているメーカーには米ヘイズ社、米モトローラ社、米マイクロコム社、日本電気、サン電子、TDK、松下電子、ダイアモンド・マルチメディアシステムズ、マイクロ総合研究所などがあり、圧倒的に多い。これは現在のモデムのチップの大半がロックウェル社のものであることに起因していると考えられる。

プロバイダーで56Kに対応しているところはまだ数えるほどであるが、雑誌等の調査によると、大手の大半のプロバイダーは採用の方向で準備を進めている。プロバイダーにとってはTAへの対応をはかったばかりで、さらに設備投資をしなければならないのは辛いところだが、世の中の趨勢は56Kになるとみている。
プロバイダーで56Kbpsの通信を行うために、ISDNのデジタル音声データとホストコンピューターのデジタルデータを相互に変換するデジタルモデムという装置が必要になる。これにもx2方式とK56フレックス方式があり、いくつかのプロバイダーは2つの方式を採用するが、ほとんどのプロバイダーはどちらか一方を採用する意向である。ここでもK56フレックスの方が優勢のようである。

いずれにせよ、ユーザーはプロバイダー並びにモデムメーカーの対応が決まるまでしばらく待ったほうがよいだろう。TAに較べ、ユーザー側の対応が容易なため、56Kモデムの普及は一気に加速すると考えられる。97年末ごろまでにはプロバイダーも対応が完了し、モデムの価格も安定してくるだろう。


ISDNか56Kモデムか?

TA(ISDN)と56Kモデムのメリットデメリット

両者のメリット・デメリットを比較してみた。

56Kモデム
のメリット
  1. 今ある電話回線をそのまま使える。ISDNのように新たな工事は必要ない。もちろん費用もかからない。アパートや借家住いで勝手に電話線を変更できない場合でも関係ない。
  2. 1回線で済み電話代は今のまま。
  3. モデム価格は2〜3万円と安い。モデム以外の投資は必要ない。
  4. たTAば速度的には56Kbpsモデムを超えるが、機器自身がデータ圧縮を行わない。そのため文字などの転送速度では、数分の1まで圧縮する56Kbpsモデムに軍配があがる。
  5. 33.4Kbpsや28.8Kbpsのモデムと互換性がある。ISDNにしてもNIFTYへのアクセスやFAX送付、またARA(アップルリモートアクセス)などでモデムを使う機会はまだ残る。56Kのモデムならばそのままパソコン通信やFAXモデムとしても使える。速度も28.8Kにも対応するのでこれ一台だけあればよい。
  6. 通常の電話回線を使うので自宅だけでなく会社、ホテル、公衆電話など、どこからでも接続が可能。
56Kモデム
のデメリット
  1. モデムは音声の伝達を主とする電話回線を使うため、回線状況が悪いとデータの転送速度も落ちてしまう。それでも、56.6bpsK以上はほぼ確保できるが、雑音が入るとエラーも頻発して速度が大きく低下する。
  2. 56Kbpsの速度を出すには、相手がデジタルモデムを使っていなければならず、56Kbpsで接続できる相手が限られる。デジタルモデムはコストが高く、ARAサーバーや草の根パソコン通信では対応が難しい。
  3. 音声や画像データはすでに圧縮されたデータであり、これはモデムでは転送中の圧縮率が下がる。そのため、これらのデータを転送したときの速度はTAにかなわない。
  4. 音声や画像データはすでに圧縮されたデータであり、これはモデムでは転送中の圧縮率が下がる。そのため、これらのデータを転送したときの速度はTAにかなわない。
TA(ISDN)
のメリット
  1. 通信速度は64〜128Kbpsと速い。
  2. 必ず設定の最高速でつながる。(実際の速度はその時の回線の混雑度で決まるが)
  3. 既に圧縮されたデータ(JPEGなど)は転送速度が速い。
  4. 認証を含めた接続が速く、通信品質が安定している。
  5. ISDNでは回線が2回線とれる。ISDN特有のサービスが受けれる。
TA(ISDN)
のデメリット
  1. ISDN回線の設置工事が必要。もちろん費用もかかる。
  2. ISDNで電話番号が変わる場合がある。
  3. ISDNにすると、自動的に2回線になるが、これは基本料金も2倍になる。わざわざ2回線は必要ないというユーザーにとっては負担増となる。
  4. TA以外にDSUが必要。自宅で数個所で電話なども使う場合は複数のDSU+TAが必要になる場合もある。初期投資は最低でも4万円程度かかる。
  5. 電池内蔵式のTAを購入しないかぎり、停電時に電話が使えなくなる。
  6. テキストのように圧縮効率の高いデータの転送速度が遅い
  7. FAXやパソコン通信をする場合は依然としてモデムが必要になる。
  8. ISDNのコネクタのある場所からしか接続出来ない。

どちらがいいか?

ISDNの方を考えるべきユーザー 56Kモデムの方を考えるべきユーザー というわけで、インターネットでホームページを見たり、ソフトのダウンロードでもっと速くならないかな、しかしあまりインターネットに金は掛けたくないというユーザーは56Kモデムは確実に買いだ!

参考資料:Mac Fan97/5/15, MacPeople 97/7/1その他

(C)Harry Ono 1997