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EndNote日本語版活用講座(1)
How to use EndNote Japanese Edition

初稿:2002年2月28日

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1.1 はじめに

-- 私がEndNote5の日本語化を思い立ったわけ




日米の研究者の生産性の違い

研究者にとって文献を管理するのは研究活動の一部ですが、効率よくやらないと文献を集め、管理するだけで終わってしまう。文献管理はFileMakerのようなデータベースソフトを使えばかなりのことができます。
しかし、研究者にとっては最後の目的は論文を書くことです。論文には引用と引用文献・参考文献リストをつけなければなりません。しかし、これは投稿先の論文誌や雑誌によって細かく規定されており、それに対応したものを作成するのは骨が折れます。論文は書いたものの、投稿するためにはまた数日を費やすことになります。

FileMakerを使えば投稿規定に沿った参考文献リストを作成することは比較的簡単に出来きます。しかし、そのためにはFileMakerの操作法を覚えなければならなりません。
FileMakerは強力な汎用データベースソフトで、文献管理以外にもカルテ管理、名簿管理、備品管理から経理的な管理までほとんどあらゆる種類のデータ管理に使えます。だから、使い方を覚えるのは決して損にはなりません。研究者にとっては非常に強力なツールとなることは間違いありません。
しかし、全ての研究者がパソコンやソフトに強いわけでありませんし、それを修得するための時間が十分にあるわけでもないでしょう。特に、学生の場合は、論文執筆の時間が限られており、道具の使い方を勉強している暇が無いというのが実状でしょう。

EndNoteは文献管理に特化したデータベースソフトです。1本5万円もする高価なソフトです。研究者という非常に小さなマーケットが対象であるため、どうしても価格が高くなるのはやむを得ないのでしょう。
しかし、研究者にとっては決して高い買い物ではなですね。
米国の文献であればオンラインで取り出すことが出来ます。検索だけならばホームページからでも可能ですが、その内容を記録するには一つずつ手動でデータベースソフトに入力しなければいけません。しかし、EndNoteを使うと文献データそのものを自動でダウンロードできます。
一度、入力した文献は自由に編集が出来ます。
更に、EndNoteの最大の売り物が、論文原稿に引用文献を埋め込むと、自動的に文中引用と巻末の文献リストを作成してくれる機能です。アメリカの投稿規定であればほとんど用意されており、指定のスタイルを選択するだけでよいのです。
これらの機能を使ったことによる研究作業の効率化は、とても5万円では買えないほどの価値があると思います。精神的にも研究とは直接関係ない苦労から開放される効果も大きいでしょう。

アメリカ人の研究者は本当に恵まれていますね。
アメリカは文献のデータベースそのものが整備されており、誰でもが自由にインターネットで検索をしたりダウンロードできる環境があります(そもそもインターネットは大学間の文献検索のためのシステムとして発達した)。アメリカ人の研究者はデータの収集や、データベースの入力作業、更に論文の編集作業はすべてEndNote5に任せ、研究そのものと論文書きに集中できるのですね。
これではアメリカで研究のスピードが速いわけです。

一方、日本人の研究者はというと、まず、公開された日本語のデータベースそのものが非常に少ないですね。そのため、多くの研究者は文献リストを作ることに多大な時間を費やし、文献を集めることが研究の中心になることすらあります。文献リストを作成することは非常に労力を費やすので、それ自体が個々人にとってはかけがえのない財産になります。日本ではデータの共用がなかなか進まない原因の一つにこんな背景があるのかも知れません。
日本では論文を欧米で発表するには更に英語に訳さなければならないというハンディもあります。
日本の研究の生産性(=論文の発表数)が低いのもうなずけます。

なぜ日本でもEndNote5なのか

EndNote5開発元のISI Research社に聞いてみると、EndNoteあくまでもアメリカの文献管理のために開発したので、日本版の開発は全く考えていないそうです。まともな日本版となると、単に日本語への対応だけ無く、「1.3. EndNote5英語版を日本で使う場合の問題点」で指摘した、日本の事情に合わせたローカライズを行わなければなりません。もっと市場が大きければ、そうしたローカライズも可能なのでしょうが、いかんせん市場が小さすぎます。
それ以上に、ISI Research社にしてみれば、英語以外の文献の価値を認めていないのでしょうね。日本人の研究者であっても、英語の論文を読み、英語で論文を書かなければ世界では認められないから英語が扱えれば十分じゃないかという考えもあります。
アメリカ中心主義、くやしいですね。
日本には優れた文献が多数あります。日本語文献だけで研究をしている研究者も多くいます。日本語の論文執筆も盛んです。

だとすれば、EndNoteに匹敵する文献管理ソフトを日本で開発すればいいのですが、市場が小さすぎてとてもペイしないでしょう。
それならば、英語版であっても、EndNote5をとことん活用するしかありません。

幸いにMac版のEndNote5は日本語のデータを扱ったり、日本語ワープロに出力することが出来ます。
ただ、膨大な機能を持っていて、基本的な使い方は覚えれば出来るものの、細かな設定は英語版だと使う気がなくなります。マニュアルも英語版しかないので、ちょっと読む気がしないのではないでしょうか。日本の代理店のユサコ社はお客様からお金を取っているのですから、きちんと日本語マニュアルを出すべきです。(ユサコ社は自分たちの使命は研究者の支援だ、という観点が欠けているように感じます。)
ですから、こんな高価格の、高性能のソフトを持っていても、ほとんどのユーザーはその半分程度のパワーしか使っていないというのが実状ではないでしょうか。

日本語化への取り組み

私がこのソフトを知ったのは2人のMacユーザーからのメールでした。
一人は日本語の文献整理のためにEndNote5を購入した学生。もう一人は、お医者さんで英語版では使いこなせないので日本語版を作ってくれないかという依頼でした。
私は研究者ではありませんので、このソフトの存在すら知りませんでした。
デモ版をダウンロードし、ちょっと使ってみたのですが、はじめは全く意味が分かりませんでした。しかし、しばらく使ってみる内に、これはすごいソフトだと感じるようになってきました。
先に述べたように、日米の研究者の生産性の差がこんなソフトにあることに気がついたのです。
それで、猛然と、インターフェースの日本語化にとりかかり、同時に日本を使うことを前提にしたマニュアルの作成に取りかかったのです。

日本語化の作業は、プログラムが大きいだけにそれなりの時間がかかりましたが、それほど難しい作業ではありませんでした。ただ、一般の日本人にもなじみのない業界用語が多く、分かりやすい日本語を選択するのに非常に時間がかかりました。その過程でますますこのソフトに惚れ込み、少しでも多くの日本人研究者に使ってもらいたいという気持ちで作業を進めました。

このEndNote5日本語化により、英語の文献しか扱わない研究者であっても、もっとEndNoteを使いこなせるようになると思います。
また、日本語の文献しか扱わない研究者は、EndNote日本語版を使うことで論文作成の効率を飛躍的に向上させることが出来るはずです。
より多くの研究者がこれを使い、日本の研究の質と量の向上を図ってくれることを願ってやみません。■







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