mc_title2Mac Clinic Tips:
OS9を辞めないで!
---MacOSXは誰のためのOSか



初稿:2002年11月5日


私の場合

私はMacOSXを使い始めて1年半ほどになる。使っているといっても、あくまでも評価のために数台あるMacのうち1台にインストールしているに過ぎない。日常の作業の90%以上はOS9の環境で行なっている。OS9のシステムは非常に安定しており、スピードも早い。それに比べると、OSX10.1は全ての動作がもたついて、何かあるとカーソルが回転したままになり、とても実用に使えるものではなかった。OSX10.2になると速度はかなり改善されたが、まだ、OS9のサクサク感には至っていない。
私がOSXを使うのは主に、ブラウザーやメールの閲覧、iTunes、DVD Playerといった受身の使い方で、OSXで文章を書いたり、画像を処理したり、ホームページを作成したりといった創造的な仕事には全く使っていない。それは、アプリケーションが十分に揃っていないということもあるが、私にとっては今まで慣れ親しんできたOS9の操作感とあまりにも違うためにスムーズに仕事ができないこと、そして、それを変えてでもOSXを使わなければならない積極的なメリットが見出せないこと、それから、OSXの持つ一種の「親しみのなさ」が私に嫌悪感を与えているのかもしれない。
OSXのアクア表示は確かに美しい。フォントもきれいだ。ジニーエフェクとも面白い。しかし、これらは2義的なメリットでしかない。秘書を雇うときは、美人であることよりも仕事が出来ることを優先するように、OSも使えなければ意味がないのだ。

OSX10.2が発表されたとき、やっと使えるレベルになったかと期待したものだが、現実は一歩前進、一歩後退であった。
やっとOSX対応した多くのメジャーなアプリケーションがOSX10.2では再び動かなくなった。OSがアップデートするたびに、ユーザーもソフト会社もその対応に振り回されてしまうとしたら、こんな情けない話はない。Appleはこれでも、ユーザーとソフトベンダーがAppleに忠誠を誓い続けると考えているのだろうか。
私は、残念ながら、まだ当分はOSXをメインで使うことはないだろう。


雑誌記事の場合

パソコン雑誌にとってありがたいのは新しいハードと新しいOSの発売だ。特に、OSの場合は、多くのユーザーがアップグレードをするかどうするかの参考にするために参考になる。だから、最近のMac専門誌はこぞってMacOSX特集を毎号のように組んでいる。どの雑誌を読んでも分かることだが、雑誌はよいことしか書かない。それは、ある商品に対して否定的な事を書くとそのメーカーからの情報提供などのサポートを受けにくくなることもあるが、Macの雑誌がMacOSやAppleを否定してしまったらもう今後はこの雑誌は読むなと言うことと同じになってしまう。
OSの場合は、新機能の紹介でまず記事が書け、使い始めて発生するトラブル解決でまた記事が書け、と一粒で二度美味しい対象なのだ。

私は何も、雑誌が悪いと言っているのではない。雑誌というのはそういう性格をもっていることを理解して読む必要があるとユーザーの注意を喚起しているのだ。
ユーザーはあまり、雑誌の記事やAppleのニュースを鵜呑みにしてはいけない。

ある雑誌の読者アンケートの結果によると、OSXを使用しているユーザーが60%以上もいるという。ここ1年間に発売されたMacにはOSXがプリインストールされているから、これらのユーザーは否応無しにOSXを使っているかもしれない。しかし、問題は、従来からのユーザーだ。Appleの発表によるとOSX10.2の販売量は数十万本というが、これは全世界で使われているMacのわずか10%程度に過ぎない。
Mac ClinicにメールをくれるユーザーのOSの状況から見ても、OSXに移行しているユーザーは10%程度というのが現実のようだ。

なぜAppleはOSX化を急ぐか

現在販売されているMacには全てOSXがプリインストールされ、OSXがデフォールトのシステムとして起動する。現在はまだClassicモードが残っており、同時にインストールされているMacOS9.2.2が使えるようになっている。
しかし、早ければ今年末、遅くても来年春以降に出るマシンではOS9はプリインストールされない方向である。
市販のシステムCD-ROMの場合、OSX10.1まではOS9が同梱されていたが、OSX10.2からは同梱されなくなった。従って、今後はOS9を単独でインストールしたくても入手できなくなる。つまり、来年以降は新規のMacユーザーはOSXしか使うことを許されなくなる。

これは、Appleにとっても、ユーザーにとっても正しい方向だろうか。
まず、Appleにとっては、早くOSXを普及させたいという気持ちがあるのだろう。
AppleはOSXの開発に社運を賭け、多大な投資をかけた。早く出さなければWindowsとの競争に負けるという切羽詰った状況であった。
しかし、開発評価版が出て既に2年以上経つのに、新規ユーザーを除けば、既存ユーザーのOSの乗り換えは期待したほどの速度で進んでいるわけではない。当然のことながら、ユーザー数に呼応するようにアプリケーションのOSX対応もなかなか進まなかった。最近でこそやっとほぼ主要なアプリケーションはOSXでも使えるようになったが、OSXで使えるようになっただけで、機能が変わらないならば敢えてOSXに変える必要を感じるユーザーが多くならないのも事実だろう。
Appleが最近開発したアプリケーションまたはサービスの中にはOSXでなければ使えないものがたくさんある。IPhotoしかり、.macのBackupしかりである。

Appleにしてみれば、OSXでもOS9が使えるようにした機能(Classic機能)があるばかりに、なかなかアプリケーションのOSX化が進まないという思いがあるのだろう。これはユーザーのことを考え、OS9からOSXへスムーズに移行させる非常に優れた工夫だったと思うのだが、Appleはこれを自らの首をしめている誤った戦略と考えているようだ。
そして、一気に、OS9潰しをやろうとしている。

なぜ、ユーザーのOSX化は進まないか

OSXは進化ではなく退化か

なぜ、Appleの思惑通りにOSXへの移行が進まないのか。
それは明白だ。
MacOSはOS9の進化形でもバージョンアップでもない。全く異なるOSだ。だから、今までOS9で使用してきたアプリケーションは全く互換性がない。
OSXを使うには全てのアプリケーションのOSX対応版を購入するしかない。しかし、その大半は、単にOSXに対応したというだけで特別な機能が追加されているわけではない。そのために数万円の出費が必要だとなると、誰が敢えてOSXへの移行をしようと考えるだろうか。
OSXにはClassicモードというOS9のアプリケーションを使うためのモードが用意されている。これは苦肉の策だが、OS9のアプリケーションしか使わないユーザーは始めからOS9を起動したほうが早い。

互換性の問題以上に、重要なことは、OSX自体のメリットが分かりにくいことだ。
OSXが本当によいものであれば、それを使うためにアプリケーションのアップデートを行なうのは必要経費だと考えられる。
しかし、OSXはユーザーにとって何をもたらしてくれるのかがよく分からない。
OSXはUNIXの堅牢性を持つといわれている。Classic OSでユーザーを悩ませつづけてきたシステムエラー、「爆弾」から開放されるというわけだ。パソコンを使う上で、特に研究やビジネスでパソコンを使う場合、信頼性は非常に重要な要素だ。しかし、残念ながら、現在のMacOSXはバージョン10.2でも完全に信頼できる水準にはなっていない。アプリケーションはよくフリーズする。フリーズはしないでも作業が完結しないでカーソルが動きつづけることも多い。

一方で、OSXはMacOSが伝統的に特長としてきたユーザーフレンドリネスを失ったと言っても過言ではないだろう。
OSXは見かけ上はClassicのユーザーインターフェースを維持しているようにみえる。しかし、それは見せかけだけのものだ。Windowsも使用しているユーザーはよくお分かりだと思うが、WindowsもユーザーインターフェースはMacOSと変わらない。しかし、いざ、自分でシステムファイルをいじったり、システムを再インストールしたり、エラーが発生した場合の原因を探ろうとすると、MacOSとWindowsの違いに気が付く。MacOSが全てを開放しているのに対し、Windowsは素人が入り込んでよい領域とそうでない領域をはっきり区分しているのだ。Macを使っているときは自分がパソコンをコントロールしていると感じるのに対し、Windowsの場合はパソコンからコントロールされていると感じるのはそのためだ。多分、この違いが、個人ユーザー、研究者、デザイナーなどクリエーティブな感覚を重視するユーザーにMacが受け入れられてきた理由に違いない。
しかし、OSXはUnixを中核としているため、その管理方式を色濃く残している。初めてOSXを起動すると出てくる「管理者」という言葉、何かシステムを変更しようとするたびに出てくる「管理者の承認」、本来パソコンは個人が自由に使うべきものであったのにどうして「管理者」が突然現れるのか。多くの個人ユーザーは戸惑ってしまうだろう。
いろいろなことが自動で行なえるようになったのはよいのだが、背後で何が行なわれているのか分からないという不安は増大した。
一般のユーザーはパソコンがどう動いているか知る必要などない。アプリケーションが使えればいいのだという説もある。確かに、会社などの組織でパソコンを特定の業務にだけ使う場合はそれでよい。しかし、自宅や研究室で個人で使う場合、ある程度のメンテナンスも自分で行なわなければならなくなる。全てが背後で処理されているのでは、一般ユーザーは自分自身で問題の解決が出来なくなる。これではパソコンの意味がない。

Appleにしてみれば、Windowsとの競争に勝つにはビジネスの世界で使ってもらわなければならない。ビジネスの世界で認められるには、信頼性、堅牢性、更に素人は勝手にいじることが出来ないプロ性が必要だと考えてもおかしくなはい。しかし、同時に自由性が失われてしまったら、どこにMacらしさが残るのか。

MacOSXは改良の過程で限りなくWindowsに近づこうとしているかのように見える。Docを下に並べたり、エイリアスアイコンに矢印をつけたり、10.2ではMacOSを象徴していた「MacOSへようこそ」の開始ダイアログも廃止された。新年のご挨拶や誕生日のメッセージもない。ビジネスシーンでは不要のものと切り捨てていってるのだろうが、同時にMacユーザーの心も切り捨てていっていることに気がつかないのだろうか。

OSXはハードウェアの問題も大きい

OSXを動かすには非常に大きなパワーを必要とする。CPUもさることながら、メモリは最低でも128MB、HDもシステムならびにアプリケーションが肥大化しているので20GBではすぐに一杯になってしまう。要するに、古いMacはお呼びではなく最新のMacを購入しない限りはそのフルのメリットは活かせない。周辺機器もドライバを必要とするものは、ほとんどが最新のものに買い直さなければならない。
これは古くからMacを使ってきたユーザーにとっては大きな出費だ。
そうまでして、アップデートする価値があるだろうか。

Widowsユーザーにはハードルが低い?

現在、Windowsユーザー乗り換えキャンペーンをやっているが、今までWindowsを使ってきたユーザーの場合は、パソコン本体も全てのアプリケーションやほとんどの周辺機器を買い換える覚悟があるのだろうから、MacOSXに乗り換えることにはそれほどの抵抗はないかもしれない。Windows XPと限りなく似てきたとはいえ、ユーザーフレンドリネスではMacOSXの方に半歩のアドバンテージがあるかもしれない。
しかし、主にMacOSXを使うのはWindows乗り換えユーザーでもなければMacの新規ユーザーではないはずだ。今までClassic MacOSを使ってきたユーザーが主体であるはずだ。
現在のAppleは既存のMacユーザーのことを無視しすぎる。

Appleへの提言

現在のOSX10.2はまだ使い物にならない。しかし、今後出てくるMacはOSXしか使えないことになると、私は今までのMacを使いつづけるしか選択肢は残されていない。パソコンを趣味とすることをやめ、単に道具としてだけ使うならば、OSでマシンを選択する必要はなくなる。安くてアプリケーションも豊富なWindowsマシンに乗り換えるというのが最も現実的な解だろう。
しかし、それは私が完全にAppleに絶望をしたとき、つまり、パソコンの未来を信じなくなったときだろう。

わたしはまだOSXには希望をもっている。あまり長くは待てないが、少しは辛抱強く待つつもりである。だからといって、今までのユーザーを平気で切り捨てていい訳はない。
AppleにはこうしたOSXの現状と、ユーザーやソフトベンダーの感情を十分に認識し、良識のある対応をとって欲しいのだ。

具体的には、誰もがOSXにメリットを感じるようになるまでは;
  • 中途半端なアップグレードは市場の混乱の元である。もっと慎重に対応すべきである。アプリケーションの互換性を失うようなアップグレードは基本的に行なうべきではない。(OSX10.2の反省)
  • よほどの機能追加でない限り、アップグレードは無償、もしくは最小限のアップグレード費用とすべきである。
  • OS9はOSXのシステムCD-ROMに同梱すべきである。
  • 今後発売される新型のマシンでもOS9が引き続き使用できるようにすべきである。

Macを死滅させないためにも、Appleさん、よろしくお願いします。

丁度私の考えと同じ趣旨の記事を見つけたので紹介します。
ニューヨーク大学医学部スカーボール生物分子医学研究所ホームページ(日本語訳)



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