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 翻訳書『「あの世」からの帰還―臨死体験の医学的研究』

 わが国の読者に臨死体験が初めて紹介されたのは、レイモンド・ムーディの最初の著書『かいまみた死後の世界』が、1977年に評論社から翻訳出版された時でした。当時、ハワイ大学に在籍していた(現在は、京都大学大学院人間・環境学研究科教授)カール・ベッカー(別華薫)氏が、本書「日本版序文」で書いているように、日本人には、この種の体験に昔からなじみがありました。しかし、通俗的な逸話としてではなく、現実のものとしてこの体験が取りあげられたのは、『かいまみた死後の世界』が最初だったのです。超心理学という分野では、もっと前から同種の体験が研究されてきていたのですが、ごく一部の専門家を除けば、それらの研究は全く知られていませんでした。ムーディの原著は1975年に出版されていますから、今年でちょうど30年経ったところです。

 臨死体験の研究報告が最初に医学雑誌に載ったのは、本書の著者マイクル・セイボムによるものが最初でした。それは、本書の冒頭に登場するサラ・クルージガーとの共著論文で、一九七七年九月に『フロリダ医師会誌』に掲載されたものです。それ以降、現在に至るまで、一二〇件を越える論文が、医学や心理学の雑誌に掲載されています。救急医療や精神医学関係の専門誌にもたくさん載っていますが、最も多いのは、『ランセット Lancet』というイギリスの一流医学雑誌です。また、この雑誌には、本書で追究されているような、二元論的な立場で書かれた論文も掲載されています(一般の科学者は、心は脳の活動の結果として作られると考えていますが、心は脳から独立していると考える二元論的な立場の論文ということであれば、『アメリカ医師会誌』や『アメリカ精神医学雑誌』をはじめとする、いくつかの一流医学雑誌にも載っています)。これは、わが国の医学者や科学者にはほとんど知られていない事実でしょう。

 アメリカでは、後に国際臨死研究学会の母胎となる学術団体が、一九七七年一一月に、ムーディやセイボムらによって創設されました。既にこの時点で、医療関係者を中心とする専門家たちが、臨死体験の組織的研究に取り組み始めたわけです。そして、一九八一年には、臨死体験の専門雑誌(Anabiosis =現在のJournal of Near-Death Studies)が、国際臨死研究学会から創刊されています。編集委員には、ムーディやベッカー氏らとともに、セイボムもその名を連ねています。その後、この方面の研究は、大きく発展を遂げて現在に至っているわけですが、その間、わが国の、特に医療関係の専門家たちはどうしていたのでしょうか。(新装版「訳者後記」より)

 医師や心理学者は臨死体験を、脳内の現象として説明したがりますが、そのような仮説では実際に説明できないことが、本書をご覧いただくとよくわかると思います。なお、 もあらためて書き直しました。そこでは、日本の臨死体験研究史を簡単に振り返り、日本のW科学のありかたWについて検討しています。

 本訳書は、1986年5月に出版されて以来、おかげさまで、順調に版を重ねてまいりました。しばらく前から品切れ状態になっていたため、訳文に全面的に手を入れて読みやすくした新装版を出しました。出版社は同じ日本教文社で、ソフトカバー、xv+392ページ、定価は税込みで2200円です。



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