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 翻訳書『続「あの世」からの帰還――新たなる真実・47名の臨死体験』

 本書は、同じ著者による前著『続「あの世」からの帰還――臨死体験の医学的研究 Light & Death 』よりも一歩踏み込んでおり、非常に興味深い事実が紹介されています。その中でも最も劇的なのは、バーロウ神経学研究所の世界的に著名な脳神経外科医ロバート・スペッツラーが関係している事例(第3章および10章)です。患者の体温を摂氏16度以下にまで下げて心停止させたうえ、頭部の血液をすべて抜き出し、脳幹の働きも完全に停止した状態――通常の概念では、患者を死亡させた状態――で脳手術をしていた時に、その患者が臨死体験をしているのです。スペッツラーは、日本にも来て講演しているので、ご存知の専門家は多いと思います。なお、この患者は、パム・レイノルズという、天才的な音楽家だそうです。本人のホームページがありますので、関心のある方はご覧ください。

 また、本書には、臨死体験の著名な研究者であるケネス・リングの研究法に対する痛烈な批判(第7章)があり、これがきっかけとなって、2000年夏に、セイボムとリングの間で大論争がありました(Journal of Near-Death Studies, vol. 18, no. 4)。要するにセイボムは、リングを、科学的な方法を使って研究しているのではなく、自分の願望に合わせてデータをゆがめてしまったと批判したのです。これは、セイボムとリングの“天下分け目”の戦いでした。この論争を見る限り、リング側の完敗に終わったと考えてよいようです(訳者後記には、その問題が詳しく紹介されています)。そのためか、国際臨死研究学会(IANDS)のホームページに掲載されている、臨死体験関係の推薦図書には、本書は含まれておりません。臨死体験研究の批判書としては、スーザン・ブラックモアの Dying to Live: Near-Death Experiences(邦訳『生と死の境界 : 「臨死体験」を科学する』読売新聞社)という著書が掲載されています。簡単に論駁できるため、批判としてはほとんど無意味なこの著書を掲載するくらいなら、IANDSの中心的研究者のリングの研究法を真正面から批判した本書を(臨死体験研究史上、最有力とも思われるパム・レイノルズの事例が紹介されていることを考えれば、なおさら)掲載すべきでしょう。ここに、セイボムの批判の真意が理解されていない証拠があります。科学者を自認するのであれば、真の意味での批判を取りあげない限り、自己矛盾が発生します。

 また、この論争は、その後、IANDSの機関誌である Journal of Near-Death Studies, vol. 19, no. 3 の投書欄に、読者からの投書が4編掲載されましたが、それ以降はどちらの陣営からもほぼ完全に無視されています。ふつうに考えれば、これは大変奇妙なことです。そればかりか、本書は、超常現象関係の文献に、世界で最も通じているはずのリーア・ホワイトさんが運営する Exceptional Human Experience Network の書評ページにも取りあげられておりません。本当に不思議なことです。なお、一流医学雑誌であるイギリスの Lancet (2001, vol. 358, pp. 2039-45) には、本書が引用された肯定的論文が掲載されています。

 上の表紙をクリックすると、出版社の当該ページに飛びます。また、 の pdf ファイルを掲載しましたのでご覧ください。なお、出版社は日本教文社で、四六判のソフトカバーで376ページ、定価は2000円です。


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