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 翻訳書『前世を記憶する子どもたち2――ヨーロッパの事例から』

 本書の原著(European Cases of the Reincarnation Type)は、2003年にアメリカのマクファーランド社から出版された、ヴァージニア大学精神科イアン・スティーヴンソン教授が生前にまとめた著書として最後のものです。出版社は日本教文社で、ハードカバー、図版と索引がついており、viii + 575ページで、定価は、このページ数にしては破格の2700円です。

 本書の意義は、中心人物がヨーロッパ人であるところにあります。これまで、生まれ変わりの実証的研究の弱点とされてきたのは、中心人物の圧倒的多数が、南アジアや中近東やアフリカや北米大陸北西部に――つまり、“未開の地”に――住む人たちだったことです。批判者たちは、それを、証言に信頼性が乏しいことのひとつの根拠にしてきたわけです。

 中心人物がヨーロッパ人であるため、前世の人格が、たとえばナチの強制収容所で殺害されたユダヤ人であったり、ジャコバイトとして戦ったスコットランド高地人であったり、第二次大戦で撃墜された英国空軍のパイロットであったりと、ヨーロッパの歴史と密接に関係しており、非常に興味深いと思います。著者は、それを可能な限り徹底的に調査し、中心人物の証言を裏づける証拠や、それを反証する証拠も公平に取りあげ、読者自身が自ら判断できるだけの材料を提供しています。

 内容が興味深いので、厚くても読み応えがある本だと思います。なお、原著の書評は、『アメリカ精神医学雑誌 American Journal of Psychiatry』に掲載されていますので、関心のある方はご覧ください。書評の全文を無料で閲覧できます。この雑誌は、世界の一流精神医学専門誌ですが、一流医学雑誌にこのような本の書評が掲載されることは、科学そのものではなく科学技術のほうを重視する日本では想像すらできないでしょう。スティーヴンソンの生まれ変わり研究の論文も、同誌をはじめ、いくつかの一流医学雑誌に掲載されています。こうした事実は、超心理学研究がアメリカの科学者の間でどのように位置づけられているかを知るうえで、非常に参考になると思います。

 このような研究を、すぐに“非科学的”として無視してしまう人たちが、日本でも欧米でも多いわけですが、そうした態度は、はたして科学的なのでしょうか。超常現象の研究に対しては、自分を高みに置いた見下しや、没論理的な批判やあらさがし的な批判しかないのが現状ですが、それは、自らの品性や志の低さや非科学性を自他に証明する以外の何ものでもありません。真の意味での科学とは何かを考えるためにも、本書のような研究はこのうえなく貴重だと思います。

 上の表紙のサムネールをクリックすると、出版社の当該ページに飛びます。また、 pdf を掲載しましたのでご覧ください。


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