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 翻訳書『転生した子どもたち―ヴァージニア大学40年の「前世」研究』

 本書は、2005年に出版された Life Before Life (New York: St. Martin’s Press) の邦訳です。著者は、生まれ変わり型事例研究の第一人者であったヴァージニア大学人格研究室(現在は知覚研究室)の故イアン・スティーヴンソン教授の衣鉢を継ぐ、児童精神科医のジム・タッカーです。児童精神科医ですから、子どもを対象にした調査研究には最適任と言えるでしょう。本書の「まえがき」を見ると、スティーヴンソンが著者にいかに篤い信頼を寄せているかがわかります。

 スティーヴンソンは根っからの研究者なので、『前世を記憶する子どもたち』(邦訳、日本教文社)や『生まれ変わりの刻印』(邦訳、春秋社)のような一般向けの本を書いても、専門家としての姿勢を崩すことがありませんでした。その点、著者は違っていて、スティーヴンソンが長年月をかけて集めた、あるいは共同研究者とともに自ら集めたデータおよびその意味を、一般読者の視線に立って、ていねいに噛み砕いて説明しています。事例そのものも、多くは非常に興味深いものです。

 本書の特徴は、他にもいくつかあります。ひとつは、これまであまり公開されたことのないアメリカの子どもの事例を、主として著者が独自に調査した中からたくさん紹介していることです。前世の人格の予言に始まる生まれ変わりの過程は、国や文化圏によってかなり違っているようです。具体的には、予告夢や性転換例、同一家族例、幕間記憶≠フ発生率など、前世の人格が死亡してから現世に生まれ変わるまでの過程に内在する要素が、それぞれ異なるわけです。たとえば、ヨーロッパの事例(スティーヴンソン、二〇〇五年)もそうですが、本書を見ると、アメリカの事例でも同一家族例が圧倒的に多いことがわかります。それに対して、スリランカには同一家族例がほとんどありません。それは、その国や文化圏が持つ習慣や伝承や信仰などに従う形で、生まれ変わりが起こりやすいためなのかもしれません。そうすると、生まれ変わりが事実であれば、人間の心は、生まれ変わるまでの間隔や来世の性別や場所などを、ある程度の幅の中ではあっても、自覚の有無はともかくとして、多少なりとも恣意的に選択していることになるでしょう。それにより人間の多様性がはっきりしますが、そればかりではありません。人間の心がいかに大きな力を持っているかということも、同時に明らかになるのです。(訳者後記より)

 邦訳書の出版社は日本教文社で、原著にはない索引がついており、328ページで、定価は2000円です。ご参考までに、著者ジム・タッカーの恩師たるイアン・スティーヴンソンが本書に寄せたの pdf ファイルを掲載しておきますので、ご覧下さい。


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