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 『隠された心の力――唯物論という幻想 第2版』

本書の目的と構想

 本書の初版が春秋社から刊行されたのは、今から 25 年前の 1995 年のことでした。初版は 2,500 部でしたが、当時は、まだかろうじて “かたい本” が売れていた時代だったおかげで、かなり高額であったにもかかわらず、しばらくして完売になりました。その後、品切れ状態のまま今日に至っているのですが、このところ本書の古書の価額がかなり高騰していることから推測すると、本書を必要とする方が、ありがたいことにまだおられるようです。

 そこで、先に再刊した二点の拙著(『幸福否定の構造』〔2004 年、春秋社〕、『希求の詩人・中原中也』〔2004 年、麗澤大学出版会〕)に続いて、アマゾンからオンデマンド版として再刊することにしました。ただし、本書は文献的研究の要素もあるため、新しい知見を少々盛り込むことにします。 『隠された心の力――唯物論という幻想 第2版』

 かくして、二十五年前に書いた本をあらためて精読することになったわけですが、“好転の否定”など、まだ明確な形として把握できていなかった概念はあるものの、幸福否定理論全体については、現在とほとんど変わらない理論構成になっていることが再確認できました。

 それはよいとしても、やはりと言うべきか、今から見ると大きな問題もあることも同時に判明したわけです。ひとつは、全体として予測が非常に甘かったことであり、もうひとつは、そのこととも関係しますが、人間の抵抗の強さがまだ的確に把握できていなかったことです。わかっているつもりだったのですが、まだまだ甘かったわけで、その点では今でも認識が大幅に不足しているのではないかと危惧しています。

 もうひとつつけ加えることがあるとすれば、経験が不十分で自信がなかったこともあって、現行の科学知識に対してかなり遠慮した書きかたになっていたことです。当時は、控え目な書きかたを心がけていたつもりだったのですが、それにしても引き過ぎていました。

 本書では、不明瞭な説明や冗長な記述はなるべく簡潔な形に書き改めるようにしました。その一方で、現在の眼から見れば、稚拙な着想や表現があちこちにあることに加えて、明らかにまちがっている部分も散見されるわけですが、それらについてはあえて修正せず、当時の考えとしてそのまま残すようにしました。そのうえで、本文では【補註】として、巻末の註では【追記】として解説を加えることにしました。自分の至らなさを反省する材料にするとともに、幸福否定理論の進展の過程が、読者の方がたにおわかりいただけるようにするためです。(7/16/2020)

初版まえがき

 本書は、人間の心がもつ力という視点から唯物論を眺めようとする試みである。正統的とされる立場に立つ科学者の陣営から一貫して無視され攻撃され続けてきたひとつの結果として、防御に半ば徹してきた歴史的背景を考えれば、このような無謀とも言える試みがこれまでなかったのは、あるいは当然のことなのかもしれない。とはいえ、従来とは逆の側から眺めた時に、唯物論がどのような形に見えるものかを、ここで明確にしておいてもよいのではなかろうか。

 本書は、唯物論の絶対的正当性を科学的方法によって立証することはできないことから、唯物論といえども単なる臆説にすぎないという指摘から出発する。次いで、人間が隠された能力をもっていることを裏づけるさまざまな証拠を、目標指向性という本書の鍵概念を軸として概観し、私の心理療法の中で観察される現象を通じて、これまで無視ないし軽視され続けてきた心の力の実在を浮き彫りにする。そして、心の力の本質がいかなるものかを推測し、しかる後に、私の心理療法の妥当性を確認する必要性と唯物論のもうひとつの顔を明らかにする必要性とから、心理療法全般の根本に潜む問題点について簡単に検討を加える。そして、最後に、唯物論という臆説が必然的に登場し、猛威を振るうに至った理由を推定するつもりである。このように、本書の主目的は、唯物論とは相容れない、人間の心自体がもつ力の実在を明らかにすることにあるが、それとは別に副次的な目的もある。それは、“科学的”立場に立つ心理学者から不当な扱いを受け続けるとともに、これを支持する陣営からは大幅に歪められることの多かった、真の意味での深層心理学を復権させることである。

 本書は、『サイの戦場――超心理学論争全史』(1987 年、平凡社)および『超常現象のとらえにくさ』(1993 年、春秋社)という、私がこれまでまとめてきた二編書の結論部にもなっている。関心のある方にはぜひこの二書に目を通していただきたいと願うものであるが、本書だけでもおおよその全体像は把握していただけるように思う。本書では、主に、帰納的な推定や疑問の提起を行ない、演繹的断定は原則として避けるが、そのように見える記述がある場合には、便宜的なものとお考えいただきたい。

 最後に、本書の準備ならびに執筆に際してお世話になった数多くの方々に、この紙面を借りて謝意を表したい〔肩書きは当時のまま〕。東長人先生(横浜市、洪福寺眼科医院)、阿部正先生(神経難病研究所)、カルロス・アルヴァラード氏(エジンバラ大学心理学科)、石井康智教授(早稲田大学文学部心理学科)、恩田彰教授(東洋大学アジア・アフリカ文化研究所)、郡暢茂先生(徳島市、第一病院)、児玉憲典助教授(杏林大学医学部精神科)、国際医学情報センターの各位には、文献の入手に当たってご尽力いただいた。また、大量の医学、心理学文献の検索および入手については、主として慶応義塾大学医学メディアセンター(北里記念医学図書館)のお世話になった。イアン・スティーヴンソン教授(ヴァージニア大学人格研究室)とジョン・ベロフ教授(エジンバラ大学)には、励ましの言葉や貴重なご助言をたまわった。なお、ここにお名前を掲げることはできないが、私の心理療法を進展させてきた協力者でもある私の全てのクライアントに深謝するものである。

1995 年7月 22 日
笠原敏雄

 本書の内容

 本書の目次は以下の通りです。おおまかな内容をつかんでいただくために、各章の冒頭7ページだけを掲載しています。ただし、目次と参考文献と索引はすべてを掲載しました。【追記、第2章と第5章の後半が最初の2、3ページと重複して表示されますが、サーバーから直接にダウンロードすると正常に表示されるので、理由の不明な異常です。】

まえがき
目次
序 論 唯物論という臆説
第1章 隠された心の力
第2章 幸福を否定する心
第3章 心の力の本質
第4章 心理療法の根本的問題点――唯物論のもうひとつの顔
第5章 唯物論とは何か

参考文献
索引

著 者: 笠 原 敏 雄
出版者: 心の研究室
定 価: 3,520 円
体 裁: 四六版縦組み,ソフトカバー
総頁数: 372 ページ
発売予定日: 2020 年8月7日


Copyright 2020 © by 笠原敏雄 | created on 7/17/20; last modified and updataed on 7/23/20