前回は、井出駅まできていますので、今回はここからスタートです。
駅を出て、東海自然歩道は富栄橋まで富士川をさかのぼります。 富栄橋で、日本三大急流の一つである富士川をわたります。
わたりきると、そこは富沢町の福士の集落です。 ルートからは少しそれますが、福士の集落には最恩寺という臨済宗のお寺があります。
このお寺は武田一族の重臣穴山氏の菩提寺で、重層入母屋造りの仏殿は二階堂と呼ばれ、室町時代初期の唐様建築で重要文化財に指定されています。
山道を1時間余りも歩くと坂本の集落にいたります。 坂本の集落から市小路の集落へ向かう途中に、六地蔵公園への入り口があります。
六地蔵は、富士に背を向けて小さなお地蔵様が六体並んでいるところで、昔から景勝の地として有名で、ここからの富士は新富嶽百景の一つになっています。
鯨野から一山越えると徳間の集落に出ます。ここが東海自然歩道の道中で山梨県最後の集落になります。
徳間で福士川を渡り、七つ釜渓谷をさかのぼると、奥山温泉につきます。ここには町営のすばらしい設備の温泉があります。
奥山温泉から更に福士川をさかのぼり、静岡県との県境である田代峠にいたります。
田代峠からは、興津川水系になり、川を下っていくと大平の集落に出ます。その道すがら、軍艦岩という軍艦の形に似た大岩があります。
今回は約27km10時間の道のりです。
前回の歩行から2週間ぶりの東海自然歩道です。GW最初の週末ですが、今回はハイカーに出会えるでしょうか。
前回同様、品川発の東海道線の始発に乗車し、爆睡のうちに沼津に到着して乗り換え、身延線で井出駅を目指します。
対向車両が沼久保駅でドア故障を起こし、西富士宮駅で少々足止めを食って、井出駅についたのは予定より10分少々遅れて8:50でした。
しかし、天気は素晴らしく、車窓からはくっきりと富士山が拝めました。
荷物をまとめ直して、9:00に今回の行程をスタート! まずは、富栄橋まで富士川をさかのぼります。
途中、竹の子を洗っているおばちゃんに挨拶をします。
「山かい、大変だね」
「好きでやっていますから、大変でもありません」
富栄橋をわたると、東海自然歩道はすぐ右折して坂道に入ります。 坂道に入ってすぐに、案内板があったので写真を一枚。
しばらく上ると、歩道は民家の脇から細い山道を登っていきます。 倒木を越えて30分も歩くと、林道へ出ました。
犬を連れて散歩しているおじさんに会い、また声をかけていただきました。
「東海自然歩道かい。そりゃ、ご苦労さんだな。」
再び山道に入り、坂本の集落へ下りていきます。 集落に入ると、民家から幼児が2人飛び出してきました。
「おばあちゃんがいないの」
と2人して言っているので、
「きっとすぐに戻るから、おうちの中で待っていなよ。」
と言ってあげます。2人で探しに出かけたら、それこそ心配です。
坂本には、交差点にきれいな休憩小屋がありました。 ここで、一服。前日から少し風邪気味なので、煙草はあまり美味しくありません。
もっとも、普段は吸わないのですから、なくても大丈夫。
周囲の田んぼでは農家の方が手入れに余念がありません。 田んぼに囲まれた民家で、おじさんが出てきて水を使い始めたので、そこに水をもらいにいきます。
「この水は、地下水だから美味しいぞ。カルキ臭くないからな。」
それは、有り難い。
しばらく休んで休憩小屋を出発。 標識に従って進みます。 すると、東海自然歩道は六地蔵公園というところに上っていきます。
「はて、こんな公園を通っただろうか?」と疑問に思いつつも、「地図と標識が異なったら標識を優先させる」という方針で今まで歩いてきたので(地図は当てにならないところが間々あります)今回もそれに従いました。
道は、小高い丘に登っていき、頂上付近で「六地蔵200m」の標識が現れました。
少しルートからは外れますが、この程度の距離なら六地蔵を見ていこうと思いました。
六地蔵にはすぐに到着しました。いやはや、素晴らしく富士が美しい! そして、富士に背を向けた六体のお地蔵様のかわいいこと。
先客で、写真を撮りにきていたおじさん2人に頼んで、シャッターを押してもらいました。
思親山で、”六地蔵は観光ポイントとして作られたという感じがしてよくない”と言う話を聞いていました。
お地蔵様の前に小さな花畑がこれ見よがしに作られているのがよくないというのです。
しかし、どうでしょう、僕は素直にここからの富士山とお地蔵様が美しい景色を作っていると思いました。
六地蔵を後に、再び歩道に戻ります。 しかし、地図と見比べても自分が現在どのあたりを歩いているのか分かりません。
道は一本なので、沿って進んでいくと先ほど休憩した休憩小屋が近づいてきます。
結局先ほど上った丘を下りてきてしまいました。 どうもよく分からないので、先ほどの休憩小屋まで戻って道を聞くことにしました。
そこで(丘は通らずに)川に沿って戻っていくとそこに”東海自然歩道”の標識が。
あれあれ、先ほどの丘の上の道は東海自然歩道ではなかったのでしょうか。 ちょうど向こうからおばさんが歩いてきたので、次のポイントである鯨野へいく道を尋ねます。
すると川に沿って真っ直ぐいけばよいとのこと。 また、踵を返して川をさかのぼります。
すると、出てきました、東海自然歩道の標識が。 その標識によると、東海自然歩道は六地蔵のほうを通ることになっています。
ここで合点がいきました。 ルートの変更があったのです。 旧ルートは坂本から川に沿って鯨野を目指していたのですが、新ルートは六地蔵経由で鯨野へ向かうようになっていたのです。
新ルートは、ウォークガイド(学研)にもニッチマップ(日地出版)にも出ておらず(この2つは旧ルート)、山梨県発行のハイキングマップにだけ新ルートが示されていました。
川沿いにあった標識は旧ルートの名残と言うわけです。変更があったのなら、路上の標識にもその旨を書いてほしいところです。
ここで時間をロスしてしまい、坂本に着いたのは10:50だったのに鯨野に着いた頃には12:00になってしまいました。
山道の入り口にベンチがあったので、ここで昼食にします。 少し遅れ気味なので、先を急ぐため早々に昼食を終え、12:30には再び出発。
ここからが案外きつい道でした。途中行き交う人もなく、一旦出た林道からそれて細い道を小川に沿って登り、再び林道に出ます。
きつい上りを終えて、ほっとしたのですが、林道を出てから徳間までが長かった。いくら歩いても集落が出てきません。
ようやく眼下に家並みが出てきてホッとしましたが、時刻はすでに2:00過ぎ。
次なる田代峠へ向かうには、どのルートを通るのか、しかとはわかりません。
はるか眼下に川がありますが、あそこまで下りるのはいやだなぁと思っていました。
また、下りたら間違いだったでは、目も当てられません。 そこで、見事なこいのぼりを上げている家のおじいさんに道を聞きました。
しかしこのおじいさんは、こちらの言っていることがよく分からないらしく、”さあなあ”を繰り返すばかりです。
仕方ないので、少し戻って天伯園という民宿で道を尋ねました。 宿のおばさんによると、やはり川まで下って、橋を渡るそうです。
ここのおばさんは親切で、大平まで今日中に行くという話をすると、
「今から行くとなると大変だ。あそこには宿はないよ。大平のバス停の裏の家を訪ねなよ。私の実家だからさ。」
と有り難いことを言ってくださり、家の屋号も教えてくださいました。 もしも大平で本当に困ったら寄らせてもらおうと思いました。
水を補給させてもらい、別れ際におばさんがもう一言。
「大平でテントを張るなら、ブロイラーの近くには気を付けな。熊が出るらしいよ。」
それは恐い。今晩は人家の近くでテントを張ろうと思いました。
徳間で福士川のほとりに着いたのが2:30。 予定よりかなり遅れています。
橋のたもとに橋本商店という店があったので、ジュースを一本飲み干します。
そして、次なる目的地田代峠へ歩を進めました。
道は、福士川に沿って続きます。 徳間を出てすぐに道路工事に行き当たりました。
工事のおじさんに
「東海歩道かい、がんばれよ」
と声をかけられながら、意外と頻繁に車が通る舗装路を奥山温泉に向け延々と歩きます。
できることなら5:00過ぎに峠に着きたい、という思いで足を速めたのですが、標識に出ている距離はなかなか縮まりません。
七つ釜の滝を過ぎて、奥山温泉に着いたのはすでに4:00。 温泉の手前にはたくさんのオートキャンパーがテントを張り終え、夕食の準備なり、温泉に行くなりしています。
余裕があれば、僕も一風呂浴びていきたいのですが、今回は時間がないので横目で見るだけです。
温泉の駐車場の一番奥から東海自然歩道は再び未舗装路になります。 そしてここから先は東海自然歩道の歩行者以外通行止めの区間。しばらくはまったくの独りぼっちです。
この区間に入って一人だけ行き会いましたが、奥山温泉にキャンプにきている人でした。
徐々に暮れてくる空を気にしながら先を急ぎます。 林道に沿ってぐんぐん福士川をさかのぼっていき、途中で福士川から離れたなと思ったら、道が行き止まりになってしまいました。
ここから先には、山道も見当たりません。 地図と地形を見比べて検討した結果、東海自然歩道はどこまでも川をさかのぼっていることから、どこかであった曲がるポイントを見落としたようです。
ガックリきてしまいました。 しかし、少し道を戻ると曲がり道が見つかりホッ。
曲がるポイントでの標識は、付箋のように小さいものがペタッと木の高いところに貼り付けてあるだけでした。
ううーん、もっと堂々とした標識にしてもらいたいところです。
ともかく、田代峠への道が見つかったことで一安心。 しかし、時刻はすでに5:00。気持ちは焦ります。
目前に峠らしきものが見えてきて、”あれこそ田代峠”と思いきや、標識が出てきて"峠まで40分"と出ています。
田代峠はなんて遠いんでしょう。しかし,行くしかありません。 いよいよ沢も枯れ、坂も登りきったところで、何やら不穏な雰囲気が立ち込めました。
ひょいと見ると、そこには"賽の河原"の表示。 沢は枯れ、桧林がただでさえ弱々しくなった夕日を遮り、何やらゾクゾクと寒気がしてきます。
うわーい、こんなところは早く抜けたいよう、という一心で急ぎ足になったらすぐに峠に着きました。
到着は5:45。 予定より大幅に遅れてしまいました。
時刻からすれば、田代峠で幕営してもよいのですが、先ほどの"賽の河原"が薄気味悪いのと、明日の行程を考え、大平キャンプ場まで下りることにしました。
峠で5分ほど休んでから、下りに入りました。
ここまで結構無理をして歩いてきたので膝が痛みます。 しかし、こんな細い山道で日が暮れてしまったらコトなので、がんばって先を急ぎます。
途中1回コケましたが、30分ほどで林道に出ました。 よかった、これでなんとか日が暮れても歩きつづけることができそうです。
その後は、主に林道を下ります。 しばらく歩くとゲートが出てきて、ここから先は一般車両も通れる道です。
遠くに明かりが見えました。あれが集落でしょうか。このあたりで暗くなってきたので、ヘッドランプを装着します。
昨年のGWに続いて、再び夜間歩行です。 しかし、昨年の夜間歩行の経験からヘッドランプを購入し持参してきたのは正解でした。
とにかく、向いた方向を照らしてくれるというのは楽なものです。
出来たばかりの貸し別荘らしき建物の脇を通り、ひたすら大平を目指し歩いていると、軽自動車が後ろからやってきて、僕を追い越してとまりました。
おばちゃんが顔を出し、
「どこまで行くんですか?」
と聞いてきます。
「大平まで。」
「車が置いてあるんですか。」
「いいえ。」
「あの辺は泊まるところがないですよ。」
「テントを持ってきています。」
「じゃあ、大平まで乗っていきませんか。」
とても有り難い申し出です。日もとっぷりと暮れてきていること出し、体も疲れ切っているし、しばし迷いました。
「今、東京からずっとここまで歩いてきているんです。本当に有り難いんですが、あと少しだろうから歩きます。」
「そうですか、がんばって!」
深々と頭を下げて車を見送りました。
暗い中、軍艦岩を通り過ぎ、7:15に大平キャンプ場の標識に到着。 しかし、周囲は茶畑でキャンプ場らしき明かりも人家も見当たりません。
おまけに[熊出没注意!]の看板が。 熊に襲われてはシャレになりません。
徳間の天伯園のおばちゃんが言っていたことは本当のようです。 とにかく、人家の近くまで歩くことにしました。
7:30、集落の明かりの近い茶畑の脇に平地を見つけ、テントを張りました。 疲れている体をもう一踏ん張りさせて、着替えをして夕食を作りラジオを聞きながら食べました。
美味しい! ラジオでは、タイガースがヤクルトに勝ったと伝えていました。 ウイスキーで祝杯をあげ、9:15にシュラフにもぐりこみました。
寝際に見た星空はきれいだった!とてもとてもとても疲れていたので、すぐに眠りに落ちました。
井出駅から富栄橋までは車道を歩くので道に迷う心配はありません。 富栄橋をわたってすぐに細い坂道に入るのですが、小さな標識が立っていますので、見逃さないように気をつけてください。
文中で"坂本"と書いた地区は、地図によって名称が違います。 坂本は山梨県発行の東海自然歩道ハイキングマップでの名称で、日地出版発行のニッチマップでは"東市組"あるいは"小久保"、学研発行の東海自然歩道ウォークガイドでは"東市組"になっています。
ここから鯨野にいたる道が変更のあったルートで、ニッチマップとウォークガイドは旧ルートで書いてありますが、ハイキングマップだけが新ルートで書いてあります。
標識に従っていくと新ルートになると思います。 参考までに、新ルートは市小路方面へ向かってから六地蔵公園への上りに入ります。
旧ルートは川に沿っていきます。
鯨野にはルート沿いに民宿が二つあります。うち一つは温泉の表示がありました。
鯨野から徳間までは山道と林道です。山道はなかなかきついのですが、その後に控える林道が長くて精神的には林道のほうが堪えます。また、他の歩行者からの情報によると、鯨野から徳間までの間の山道には山ヒルが居るとの事。被害に遭われている方も居るのでご注意ください。
徳間には民宿が何軒かあるようです。うちルート上にあるのは、文中にも出てきた天伯園です。
徳間から奥山温泉までは舗装路になります。これがなかなか長い道程です。 奥山温泉はニッチマップではルート上にないことになっていますが、実際にはルートに沿って七つ釜渓谷をさかのぼった先にあります。
この温泉は宿泊できるという情報もありますが、詳しくは温泉ミシュランというHPをご覧下さい。このあたりまでのバス便や宿泊は富沢町観光課にお問い合わせください(05566-6-2111)。
奥山温泉から田代峠までは林道になります。 最後に林道を外れて山道になりますけれど、その曲がり道の標識は小さくて木の上のほうに掲げてあります。
僕のように見落とすおそれがあります。注意してください。
田代峠から大平までは、最初が山道、すぐに林道になります。ひたすら谷あいを海に向かって下っていきますので、迷うことはないでしょう。
僕が幕営したのは、大平の集落の中の出羽という地区だと思います。 僕は大平キャンプ場がわからなかったのですが、静岡県発行の東海自然歩道ガイドによると夏期のみ営業だそうです。
大平地区には民宿がないそうなので、宿泊するには河内地区・西里地区まで行くか清水市街まで行くほかないでしょう。
大平地区への交通は静岡鉄道(株)(054-254-5125)へお問い合わせください。 また、宿泊は清水市観光課(0543-54-2181)へお問い合わせください。