前日は坂本で幕営しましたので、今回は坂本から先、黒俣川をさかのぼります。
坂本から少し坂本川を下ると、藁科川に出会います。この地点が寺島です。
寺島からは静岡市に向かう道が伸びていますが、この道もかつては軍道だったそうです。
寺島で吊り橋を渡ると大峰山の登りに入ります。稜線を伝って下りきると、そこは久能尾です。
久能尾は、大井川の奥にある千頭方面へ伸びる道と東海自然歩道が通る清笹峠への道の分岐点になっています。
久能尾からは黒俣川に沿って清笹峠を目指します。途中の坂野には黒俣の大銀杏があります。
清笹峠でようやく長かった静岡市を抜け藤枝市に入ります。
舟が久保を抜けると宇嶺のの滝にいたります。
この滝は落差70メートルの見ごたえのあるものです。
宇嶺の滝を過ぎると程なく蔵田にいたります。
今回は約21km7時間の道のりです。
テントの下が平坦だったので、その夜は夜中に目覚めることもなく、ぐっすりと眠れました。
翌朝は、まだ暗い4時半に起床。しばらくシュラフの中で夢の続きをむさぼります。
5時前にはテントを出て、目の前の小川で顔を洗い朝ご飯を作りながらテントを畳みます。
テントには、朝露が沢山ついていました。
ラジオをつけながら朝ご飯を食べていると、天気予報でよくない話が流れてきました。
九州地方まで進んできていた梅雨前線が北上を始め、今夜から雨になるというのです。
雨は明日も降り続け、どうやら東海から関東地方も梅雨入りしそうな気配です。
これには参りました。
予定では、今日明日と歩き続けて大井川に出ることになっていたのです。
しかし、雨の中を歩くのはまっぴら御免。行程は今日で切り上げることにしました。
しかし、そうなると次なる問題は、今日はどこまで歩を進めるかということです。
初めの予定では、蔵田を過ぎて高根山を越えたあたりで幕営することにしていました。
ですから、蔵田までは余裕でたどり着けるはずです。
しかし、その先に歩を進めるとなると、大井川に出るまでは交通が不便な地域を通るので、帰るのに支障が出てきます。
ですから選択肢としては2つ、蔵田で早めに切り上げるか、頑張って大井川まで行くかです。
頭の中でざっと歩行時間を計算すると、蔵田にはお昼過ぎに着き、大井川には夜の7時過ぎに着くことになります。
まあ、歩行時間はその時々の調子によって変わってくるし、歩いているうちにどちらまで行くかを決めればいいやと思いました。
朝ご飯の片づけをして、荷物をまとめて、6時には今日の行程を歩きはじめました。
今日の天気は晴れ、今日一日はお天気に恵まれそうです。
坂本から坂本川に沿って歩きはじめてすぐ、坂本川は藁科川に合流します。
この地点が寺島です。寺島には案内板がありますが、その外には特に見るべきものはないと思っていました。
しかし、ルートに沿って歩いていくと目の前に吊り橋が現れました。
吊り橋のたもとには”いわな屋”という店があり、朝早くから釣り人が沢山来ています。
この吊り橋のたもとで写真を一枚。
吊り橋から川を見下ろすと川にも太公望が入り込んで釣り糸を垂れています。
大きな荷を背負って歩いていると話し掛けられる事が良くあります。
今朝も、吊り橋を渡ってしばらく歩いたところで初老の夫婦に話し掛けられました。
「朝早くから頑張っているなぁ。」
「おはようございます。」
「どこから来た?」
「東京からです。」
「東京から?昨日はどこかに泊まったかね。」
「はい、坂本に。」
「テント張って泊まったか。そりゃご苦労だなぁ。」
茶畑の間を通り、大峰山の登りに入ります。まずまずのきつい上り道を抜けると山の向こう側を見下ろす高台に出ます。
ここで、荷物を降ろして一休み。遠くから何やら機械音が聞こえます。お茶畑の作業中でしょうか。
地図では、この辺りから下りに入るはずですが、道はなかなか下り始めません。
それどころか、尾根伝いに進んでいきます。クモの巣を払いながらの歩行ですが、時折現れる茶畑の緑がなんとも美しい。
結局、山を下りたところが久能尾でした。
山を歩いている時から汗がダクダク出てきていました。
山を下ったら、最初に見つけた自動販売機でジュースを買おうと思っていました。
山道から久能尾に出た、まさにその出口に、図ったように自動販売機とベンチがありました。
迷わず休息を取ります。
一息ついていると、店のおばちゃんが出てきたのでしばし話します。
大学生かい?といわれましたが、確かにこんな気の長い道楽をする社会人は早々いないでしょう。
物陰で短パンに履き替えて、軽快になったところで8:20に久能尾を出発。
懐かしい風情の御茶屋さんの前を通り、黒俣川に沿って歩き始めます。
両側に茶畑が続き、黒俣川が涼しい音を立てて流れる気持ちの良い道ですが、時折通る車が気になります。
東海自然歩道を歩いていると人にも会わないという道が多く、車が走っているのを気にしながらの歩行は面倒な感じがします。
出来れば、気の向くまま道の左右真ん中を縦横無尽に使って歩きたいものです。
そろそろ人家が無くなってくるので水補給をしなければと思っていたところ、おじいちゃんがのんびりと椅子に腰掛けて道を眺めていました。
声をかけて水をいただきます。
水をいただきながら話を伺うと、おじいちゃんのところでは高級手摘み茶の栽培から製品化まで行っていて、ここの良質な水はとてもお茶に良いとの事。
「1Kg5000円(たぶん卸値)もするお茶だぁ。」
と言うので、
「そりゃ飲んでみたいなぁ」
と返すと、
「じゃ、飲んでけ。」
と言ってくださいました。おじいちゃんが一声かけると奥さんがお茶を煎れてきてくださり、ついでに夏みかんを一つくださいました。
いやあ、お茶が美味しい!
お茶を頂きながらおじいちゃんの話を伺いました。
戦争にいった話、作業中に高所から落ちて腰を悪くした話、大イチョウは誰かが何かの目的で植えたに違いないという話、などなど。
たっぷり20分も休憩して、再び出発!おじいちゃん何時までも元気でいてくださいね。
おじいちゃんの庭先を出てすぐに、黒俣の大イチョウに着きました。
その幹はとても太く、いやはや立派なイチョウでした。
ここから道は清笹峠への登りになります。
ただひたすらのダラダラ坂で、きつい日差しとムッとくる熱気が気になり始めました。
日陰に入ると帽子を取り、日向に出ると被るの繰り返しをしながら歩きます。
久能尾から峠までは7.5kmと、久能尾の看板に出ていました。おおよそ500mおきに距離表示板が出ています。
それを横目に睨みながら、あと2km、あと1kmと峠に迫ります。結局、清笹峠は久能尾から7.6kmの地点。
10:30に到着しました。
この時点でこれからの行程をどうするかを検討しました。
どう早く着いても蔵田には12時過ぎ、さらに大井川まで足を伸ばすとなるとさらに6時間かかります。
すなわち大井川到着は7時ごろになってしまいます。
朝計算した最速ペースです。
しかし、このペースで7時まで歩き続けるのはしんどい。
東京に帰るのが深夜になってしまいます。
ということで、今日は蔵田で終了することにしました。
そう決めると、ここまで急いできた足取りが急に遅くなります。
さらに、とたんに足が痛み出します。
清笹峠は10:45出発。
そして、竜爪山以来歩き続けてきた静岡市をようやく抜け出て藤枝市に入ることができました。
藤枝市に入って最初の集落は、舟が久保です。
この集落は斜面いっぱいに広がる茶畑がとても美しい眺めを作っています。
更に進んで、宇嶺の滝には12:30到着。
時間に余裕ができたことですし、東海一の名瀑という評判ですし、コースから少し下って滝見物をすることにしました。
滝は、落差も水量も十分で、見ごたえのあるものでした。
滝を正面に見るところに休憩所があり、ここで昼食を取ることにしました。
今夜の夕食に予定していた食料も全てつぎ込み、豪華な昼食になりました。
デザートは、先ほどいただいた夏みかん。
たっぷり1時間かけてランチタイムを楽しみました。
十分休憩して出発。
宇嶺の滝から蔵田はすぐです。
バス停につくとちょうどいい具合にバスが来ていました。
4分後に発車ということです。とてもラッキーでした。
運転手さんと話をしながら藤枝駅へ向かいました。
坂本の親水公園はとても良いテント場ですが、人家が隣接しているため、幕営の場合は一言断ってからの方がマナーとしてよいのではないでしょうか。
坂本から寺島へは一本道です。
寺島からは静岡駅はバス便が出ています(静岡鉄道(株)054-254-5125)。
寺島からしばらく車道を歩いていくと眼下に吊り橋が見えてきます。
この吊り橋を渡ってから山に向かいます。
大峰山への登り口は茶畑の間を抜けていきます。
ニッチマップ(日地出版)によれば、大峰山の山頂は通らずに、久能尾より少し下流のあたりへ出ることになっていますが、実際には尾根を伝って山頂を通り茶畑の間を久能尾へ下りていくことになります。
久能尾からも静岡駅へ静岡鉄道のバスが出ています。
また、ここから蔵田まではずっと車道を歩くことになります。
暑い時期ならば長ズボン・長袖はやめにして、単パン・Tシャツで軽快に歩くのがお勧めです。
坂野までの道はほとんど平坦で、何も心配はありません。
坂野を過ぎると左手に大銀杏を見ながら清笹峠への登りに入ります。
この登りも車道ということもあって、きつい登りではないのですが、くねくねと曲がったダラダラ坂になります。
このような道は苛々してきますね。また、水場は坂野を過ぎると舟が久保までありません。
水補給は坂野までにきっちりと済ませておきましょう。
清笹峠は標識があるのでそれとわかりますが、ベンチも何もありません。
しかし、ここから下りに入るので、気が楽になります。
清笹峠からしばらくは笹間ダムへ向かう道を歩きますが、すぐに左折して蔵田へ抜ける道にはいります。
山並みを見ながら歩くと茶畑が開けてきます。ここが舟が久保です。歩道は集落の中を通りませんが、見下ろす茶畑は美しく、ちょっとしたビューポイントです。
舟が久保から40分余りで宇嶺の滝に着きます。
この滝は、落差70mの大滝で、別名をおきみの滝と言うそうです。
なかなか見事な滝で、とても涼しいので休憩ポイントとして絶好です。滝までは少しコースから外れて下りますが、ぜひ寄ってみてください。
宇嶺の滝までくれば、蔵田は目と鼻の先です。蔵田からのバス便は本数が少ないので、事前に問い合わせておくべきでしょう(静岡鉄道藤枝営業所054-641-3255)。また、日曜祝日と平日のダイヤが異なる事にも注意してください。
蔵田の宿泊の場所として、市営の高根荘という格安の木賃宿があると東海自然歩道関係の本には必ず書いてありますが、平成7年から廃止されていると蔵田郵便局長からの情報を得ました(渡辺局長、有り難う!)。
蔵田での宿泊施設は今の所無いようです。近辺の宿泊所については、藤枝市商工課(0546-43-3111)へお問い合わせください。