実験 2



 
 
 
 
実験前の学習

単位ステップ関数 :
時刻が負の時0の値をとり、非負のとき1の値をとる時間関数
 

  この実験では、実験1で得た各制御をDCモータへ適用して、性能評価を多面的に行う。

[作業1(性能評価)] 目標がステップ関数(0時刻に0から1へ変化)の場合

実験1では、定常偏差を零にすることのみで制御性能を評価したが、実際には、目標値に速く到達することや、制御に必要な入力の大きさ、制御量である出力軸の角速度の最大値も重要な性能評価項目である。一般的には、出来るだけはやく目標に到達し、制御に必要な入力はできるだけ小さく(性能のより低いモータで制御可能となるから)、角速度の最大値も出来るだけ小さい(性能のより低いモータで制御可能となるから)のが好まれる。これらの制御性能を次の4つの指標ではかることとする。

立ち上がり時間 : 制御を開始してから、目標値へ始めて到達するまでの時間
定常偏差 : (目標角速度 - モータ出力の角速度)の定常値
操作量のピーク値 : DCモータへの操作入力電圧のピーク値
行き過ぎ量(オーバーシュート量) :モータ出力の角速度が目標値を越えた場合において、モータ出力の角速度のピーク値 - 目標角速度

目標の角速度を r(t)= 1 [raad/sec] のステップ関数とした場合の実験1の3種の制御を用いた場合のモータ出力軸の角速度の時間応答と操作入力電圧の時間応答を次に示す。

これらの図から、各制御を用いた時の応答をまとめて、次の性能比較を得る。
 

各制御の性能比較表
制御則
開ループ制御 : 
u(t)=1.29×r(t)
閉ループ制御 : 
u(t)=12.9×e(t)
開ループ制御+閉ループ制御 : 
u(t)=1.29×r(t)+12.9×e(t)
立ち上がり時間
 約 1.04 [sec]
約 0.054 [sec] 
約 0.046 [sec]
定常偏差
 0.00
 0.09
0.00
操作量のピーク値
 1.29 [V]
 12.9 [V]
 14.19 [V]
行き過ぎ量
 なし
0.05 [rad/sec] 
   0.16 [rad/sec]

すなわち、開ループ制御系では、立ち上がり時間は遅いが、定常偏差もなく、操作量のピーク値も非常に小さく、行き過ぎ量もなく、非常に良好な制御システムであると考えられる。閉ループ制御系は、立ち上がり時間が速くなった分、操作量のピーク値と行き過ぎ量が大きくなっており、さらに問題なのは、肝心の定常偏差が零ではないことである。開+閉ループ制御系では、定常偏差は零、立ち上がり時間も速い、その分、操作量のピーク値と行き過ぎ量は大きくなってしまっている。

(注)   この場合、開ループ制御の問題は、応答が遅いことだけであったが、以下の作業で見てゆくように、開ループ制御だけでは不得意とする状況が他にもある。

(注)  開ループ制御+閉ループ制御のことは、ニ自由度制御(開ループ制御のことをフィードフォワード制御、閉ループ制御のことをフィードバック制御とよび、この二つの自由度より)と呼ばれる。それに対し、開ループのみ、あるいは、閉ループのみの制御は一自由度制御と呼ばれる。

[作業2(性能評価)] モデル化誤差のある(制御則を考えた対象と実際の制御対象が異なる)場合

制御対象を正確には計測することができないとか、時間の経過とともに制御対象が変化するとかということは、よくある事である。したがって、制御則を設計する時に仮定した制御対象と実際の制御対象が異なっていても、その制御則で十分目的を果たせることが望ましい。この点についての性能を見るために、以下の作業を行う。

作業2においては、作業1と同じことを行うが、一つだけ異なる点はDCモータの抵抗が2倍のものを制御対象とすることである。制御則を求めるときの実験に用いたDCモータのアーマチャ抵抗は1Ωであるが、実際に制御対象とするDCモータのアーマチャ抵抗は2Ωになっている場合において、実験1の3種の制御を用いた場合のモータ出力軸の角速度の時間応答と操作入力電圧の時間応答を次に示す。

これらの図から、各制御を用いた時の応答をまとめて、次の性能比較を得る。
 

各制御の性能比較表(パラメータ変動の有る場合)
制御則
開ループ制御 : 
u(t)=1.29×r(t)
閉ループ制御 : 
u(t)=12.9×e(t)
開ループ制御+閉ループ制御 : 
u(t)=1.29×r(t)+12.9×e(t)
立ち上がり時間
 ∞
 ∞
定常偏差
 0.49
 0.16
0.08
操作量のピーク値
 1.29 [V]
 12.9 [V]
14.19 [V] 
行き過ぎ量
なし 
なし 
なし 

これらの結果、閉ループ制御は開ループ制御よりモデル化誤差(制御系を設計するときに仮定した制御対象と実際の制御対象との動特性の相違、ここの場合では抵抗の値)に対し、定常偏差性能の劣化が少ないことが分かる。事実、回転速度の変動の定常偏差は、開ループ系では、0 から 0.49 へ大きくなったが、閉ループ制御系では0.09 から 0.16 へ、開+閉ループ制御系では0 から 0.08 へと少しの劣化で済んでいる。このことをさして、閉ループ系は開ループ系に比べて、モデル化誤差に対する感度が低い、あるいは、ロバスト(頑強)であると言われる。

[作業3(性能評価)] 周期外乱のある場合

作業3においては、作業1と同じことを行うが、一つだけ異なる点はDCモータを横に倒していることである。この場合、モータの出力軸についているビームの影響でDCモータに対し外乱トルクが発生する(DCモータの出力軸が垂直方向の場合は、ビームの重力は回転方向と垂直なので回転運動に関係しないが、モータを横に倒された場合は回転運動に関係するトルクを発生する)。外乱の有る場合(モータを横に倒し、負荷を変動させる)の実験1の3種の制御を用いた場合のモータ出力軸の角速度の時間応答と操作入力電圧の時間応答を次に示す。

これらの図から、各制御を用いた時の応答結果について、次を得る。

開ループ制御  u(t)=1.29×r(t) の場合 : 過渡的な応答の後、回転速度が周期的に変わる状態が続く。これは、中心が1[rad/sec] で、最大と最小は各々、1±0.19 [rad/sec] の周期関数となる。この周期は約 6.4 [sec] である。

閉ループ制御 u(t)=12.9×e(t) の場合 :  過渡的な応答の後、回転速度が周期的に変わる状態が続く。これは、中心が0.91 [rad/sec] で、最大と最小は各々、0.91±0.02 [rad/sec] の周期関数となる。この周期は約 6.9 [sec] である。

開ループ制御+閉ループ制御 u(t)=1.29×r(t)+12.9×e(t) の場合 : 過渡的な応答の後、回転速度が周期的に変わる状態が続く。これは、中心が1[rad/sec] で、最大と最小は各々、1±0.02 [rad/sec] の周期関数となる。この周期は約 6.4 [sec] である。

これらの結果、閉ループ制御は開ループ制御より外乱の除去性能が高いことが分かる。事実、回転速度の変動の振幅は約 1/10 (≒0.02/0.19) に低減されている。このことをさして、閉ループ系は開ループ系に比べて、外乱に対する感度が低いと言われる。

[作業4(性能評価)] 目標が周期関数の場合

作業3までは、制御目標は 1 [rad/sec] と時間に関らず一定であったが、ここでは、目標が周期関数である場合を扱う。
作業1と異なる点は、r(t)=1 を r(t)=sin(2πt)  に変えることである。この場合の実験1の3種の制御を用いた場合のモータ出力軸の角速度の時間応答と操作入力電圧の時間応答を次に示す。

これらの図から、各制御を用いた時の応答結果について、次を得る。

開ループ制御  u(t)=1.29×r(t) の場合 : 過渡的な応答の後、回転速度が周期的に変わる状態が続く。これは、1+0.63sin(2πt - 1) [rad/sec] である。目標速度と比べて、振幅も 0.63 と小さく、位相の遅れも 1[rad] と大きい。

閉ループ制御 u(t)=12.9×e(t) の場合 :  過渡的な応答の後、回転速度が周期的に変わる状態が続く。これは、0.91+0.91sin(2πt - 0.1) [rad/sec] である。目標速度と比べて、振幅も 0.91 と少し小さく、位相の遅れは 0.1[rad] でありほとんど遅れはない。

開ループ制御+閉ループ制御 u(t)=1.29×r(t)+12.9×e(t) の場合 : 過渡的な応答の後、回転速度が周期的に変わる状態が続く。これは、1+sin(2πt - 0.1) [rad/sec] である。目標速度と比べて、振幅は同じ、位相の遅れは 0.1[rad] であり位相もほとんど同じである。

これらの結果、開ループ制御より閉ループ制御が周期目標関数への追従性に優れており、さらに、閉ループ制御より開ループ+閉ループ制御がより周期目標関数への追従性に優れていることが分かる。

[作業5(考察)]
 
 
 

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