昨年の晩秋以来、4ヶ月ぶりの歩行になります。
昨年の終着は猪之頭でした。
したがって、今回は猪之頭からのスタートです。
猪之頭は、水のきれいな所で東洋一の規模の富士養鱒場があります。
その外、あまり知られていないようですが、陣馬の滝という中規模の滝もあります。
猪之頭から田貫湖まではほとんどが舗装路です。
しかし、道上を川が流れる(その様な構造になっています)という所もある、野趣に富んだ道でもあります。
田貫湖の手前には小田貫湿原という小さな公園があります。
小田貫湿原自体は1.75haあるなかなかのものです。
園内には木道が敷かれ、もちろん富士も望め、散策するには絶好の公園です。
自然歩道は田貫湖畔に出る直前に長者が岳の登山道へと折れます。
この登山道には、田貫湖を眼下に収めるポイントがあります。
長者が岳と天子が岳は隣接しており、標高から行けば長者が岳の方が少し高いのですが、天子が岳の方が名が通っているようです。
このあたりの山並みを天子山塊という事もありますし、地元ではお天子様というようです。
山高きゆえに尊からずといったところでしょうか。
自然歩道は、天子が岳と長者が岳の間で上佐野への下山道に入るのですが、天子が岳の頂上までを自然歩道と記している地図も多いようです。
したがって、天子が岳の頂上までいった場合には盲腸線のように上佐野への下山道まで戻ってくる事になります。
上佐野は、天子湖の少し上流に位置し、このあたりから自然歩道はお茶畑の間を通るようになります。
今回は約13km6時間半の道のりです。
昨年の秋以来、4ヶ月近くのブランクがありました。
この間特に何かをやっていたというわけではなく(スノボーも行きそびれました、残念!)、ただ単に寒い時期の歩行を避けていたというのが真相です。
また、僕は杉花粉症なので、2月の後半から4月の頭まではなるべく外に出ずにおとなしくする事にしています(それでこの時期に東海自然歩道膝栗毛のページを立ち上げたわけですね)。
4月も中旬になり、僕の遊びの虫がうずいてきました。杉花粉もそろそろおしまいです。
そこで、天気図をにらんで天候の良い日を選び、再び自然歩道の歩行に出かけたわけです。
品川発AM4:35の東海道線の始発に乗り込み、爆睡のうちに沼津につき乗り換え。
さらに富士駅で身延線に乗り換え、富士宮駅には7:40頃到着。さて、ここからが思案のしどころです。
事前にバスの時刻を確かめたところ、猪之頭農協(前回乗車したバス停)を通るバスは7:25に出てしまっており、次は11時台のバスになってしまいます。
したがって今回は白糸の滝までバスでゆき、そこでヒッチハイクにチャレンジしようと考えました。
富士宮7:50発の便で、終着の白糸の滝レストセンターには8:30到着。
バスの運転手さんに下り際に聞いたところによると、レストセンターの駐車場の前にタクシー会社の営業所があるとのこと。
いざとなれば、タクシーを利用すればよさそうです。
せっかく白糸の滝の目の前まで来たのだからと、白糸の滝を展望台の上から眺めます。なかなか大きい滝のようで涼しげな音を立てていました。
さて、ここからヒッチハイクを試みます。
あらかじめ「猪之頭」と大書した画用紙を用意してきており、これを掲げて車が停まってくれるのを待ちます。
しかし、ドライバーの皆さんは珍しそうにこちらを見てくれますが、止まってはくれません。
また、通行量も少なく、できるだけ早く出発点に着きたい僕としては、何時までもこんなことをしているわけにもいきません。
15分くらい道端に立っていましたが、確実にタクシーで行く事にしました。
これが思ったより安く上がり、2000円足らずで猪之頭農協前に到着、9時頃には陣馬の滝の入り口まで来ました。
ここから、今回の東海自然歩道が始まるのですが、せっかくですから、陣馬の滝だけ見て出発することにしました。
陣馬の滝は白糸の滝よりはるかに小さいのですが、清冽な水が水量も豊富に落ちていて、気持ちのいい滝でした。
滝の入り口に戻ってきたところで、沼津からやってきたハイカー2人に会いました。
この方々も田貫湖方面へ行くとのこと。
やはり陣馬の滝を見てからスタートするという事なので、僕は一足先にスタートしました。
途中の民家で水をいただき、お兄さんに道を聞きながら林の間の道を抜けていくと、前方に小奇麗な公園が現れました。
公園の案内板には「小田貫湿原」と書いてありますが、地図にもウォークガイドにも出ていない公園です。
きれいな木道が続いているので、公園の中を通っていく事にしました。
木道の周囲には湿原が広がり、あちこちにピンクの小さい花(米桜?)が咲き、遠くに目を移せば春霞の中にうっすらと富士山が見えます。
今日も良い天気で、歩くのには絶好です。
公園の中にある休憩小屋で署名のノートがあったので署名をして、一服していると、先ほどのハイカーが追いついてきました。
お話をしてみると、沼津のハイキンググループに所属している仲間だそうで、次回のグループハイキングの下見に来ているとの事。
せっかくだからと、一緒に写真を撮りました。
お二人と田貫湖まで御一緒させていただき、田貫湖手前で僕は長者が岳への登りにとりつきました。
長者が岳へは、急な上り坂。
ここで、着ていたラガーシャツを脱ぎ捨てヘイコラヘイコラ一歩一歩足を進めます。
40分ほど登ると休憩小屋がありここで早くも下山途中のお兄さんと話しながら休みました。
長者が岳の山頂まではまだ1時間ほどかかるそうです。
10:50分に再び頂上へ出発。しかし、田貫湖が眼下に見下ろせるポイントにすぐに着き、再び休憩。
田貫湖を中心としたパノラマを堪能しました。
山頂までは、倒木が多く見うけられましたが、ハイカーが多く通るせいでしょう、避けて通る道がつけられており、難無く通れます。
丁度お昼時に頂上に到着。頂上には、多くのハイカーが休憩していました。
名前が通っている天子が岳でお昼ご飯を取る予定でいましたが、ここであった中年のハイカーに天子が岳は見晴らしが良くないと聞きここで昼食を取ることにしました。
昼はラーメン。のんびり作ってのんびり食べて、ゆっくり景色を眺めます。
1:00になって、頂上に登ってきた家族連れに席を譲り出発。天子が岳へは寄らずに稜線の途中から下りに入ります。
この稜線より向こうは再び山梨県です。
山梨県側に入り、道は一変、細くて整備状況もなんとなく悪い感じです。
実は、前回の歩行で知り合った大阪から東京を目指している野村さんから、NIFTYを使ってこのあたりの道の情報を事前に仕入れていました。
情報によると、昨秋の台風の影響でここから倒木がひどく、ところにより通行にかなりの障害になっているそうです。
しかし、「君なら大丈夫」という野村さんの言葉に励まされて、今回はある程度の覚悟をして出てきたわけです。
野村さんからの情報どおり、しばらく歩くと再びたくさんの倒木が現れ、しかも今度は避けて通る道がつけられていません。
越えるか、くぐるかして歩を進めます。
しかし、枝打ちがなされておらず、越えるのもくぐるのも一苦労。
しかも、倒れながらもしっかりと杉花粉をつけており、枝に触ると花粉が飛びます。
また、倒木の根っこによって道が掘り返されて、完全に破壊されている箇所もあり、そんな場合は自ら迂回ルートをつけて歩きます。
歩いている途中で、”自然歩道がこんなに破壊されているものだろうか”と考え、本当にこの道で正しいのだろうかと不安がよぎります。
こんなことを何回も繰り返し、”もうここまで来たら戻るのも大変”というあたりに差し掛かったときに道が完全に破壊され、しかもこの先どのように続いているのか見当も付かない箇所になってしまいました。
しばし呆然と立ちすくみ、どうしたらこの道を進む事ができるか思案を巡らせます。
いったん、手前の倒木を越えて幾重にも重なった倒木の前に立ち、これを越える事はできないか検討しますが、どう頑張っても無理なようです。
そこで、ひとまず再び倒木を越えて戻り、下から回りこむ道を模索します。
下から回り込むといっても、道の下は半ば崖のようになっており、倒木の上を伝っての回り道になります。
一寸平坦な場所に出て、”もしかしたらこれで通れるかも”という期待を抱きつつ足を進めると崖のような場所に出てしまいました。
苦労してきた来た道を苦労して戻り、もう一度地図で方向を確認します。
いったん稜線の方向へ登るルートをとることにし、大きく上側に迂回すると、人が歩いた形跡があります。
”しめた”と思い、足跡をたどると、どうやら道らしきところへ出る事ができました。
ほっと一息ついて一服し、水を飲み煙草を吸いました。
しばらく休んで歩き出すと、まだまだ倒木は多く道は悪いのですが、徐々に歩きやすくなり、枝打ちされた倒木も出てきて、東海自然歩道の標識も出てきました。
どうやら道はあっているし、一番大変な箇所も越えたようです。
途中で遭難という文字が頭をよぎり、長者が岳を引き返し、今回の歩行を断念しようかとも考えましたが、何とか通過する事ができました。
しかし、ここからが長かった。歩けど歩けど上佐野へは着きません。
悪路と格闘している間にかなり時間をロスしたらしく、予定の時間よりかなり遅れているようです。
結局、沢に下りて小草里という里に出たのは午後の4時近くになっていました。
里からの自然歩道への入り口にはしっかりと「通行止め」の標識が立っていました。
今夜の幕営の予定地は思親山。まだまだもうひとつ山に登らなければなりません。
思親山で幕営し、ヘールボップ彗星を見るというのが今回の目玉企画なのです。
水補給も兼ねて、庭先で草取りをしていたオバアチャンに道を聞きました。
すると、「お茶でも飲んでけ」と言ってくださいます。
あなうれしや。
オバアチャンの手招きについていって、土間にお邪魔してお茶をいただきました。
美味しいお茶でホッと一息ついてからオバアチャンと話しはじめました。
「どっから来たんだい」
「天子が岳の方から下りてきました」
「ほうかい、で、今夜はどうするんだい」
「思親山でテント張って寝ます」
「そりゃ、大変だ。今夜は冷えるよ。そんな所に泊らないで、今夜はうちに泊っていきなさい。」
何とまあ、嬉しい申し出。困難な道の後に天使に出合ったような気持ちです。
しばらく迷いましたが、オバアチャンは今夜は独りでこの家に泊るつもりだったので気兼ねは要らないといってくださるし、思親山までこれから登るとなると日も暮れてしまうだろうし、これも何かの縁と思ってお言葉に甘えさせていただく事にしました。
しかし、お客様のようにしていると心苦しいので、「いいから休んでいな」というオバアチャンの声を振り切って、せめてもと思い庭の草むしりをお手伝いする事にしました。
オバアチャンと二人で草むしりをしていると、近所のオバアチャンがやってきました。
「この人は誰だい」
という問いにオバアチャンも草むしりの手を休めて説明をしました。
すると、その近所のオバアチャンが
「それなら、うちに風呂に入りに来るといい」
と言ってくださいました。いやはや、これもまた有り難い。
日も暮れなずんだ頃、夕食の時間になり、オバアチャンは素麺を茹でてくれました。
夕食を食べながら聞くと、オバアチャンはここ小草里で生まれ育ち、今は食堂を経営しているお子さんのもと(内船駅の前)で暮らしていらっしゃるとの事。
小草里には、たまに家の手入れにやってくるとの事でした。
このほかに、お孫さんが12人いらっしゃる事、お子さんもお孫さんも皆よく育ってくれたという事、今90歳(!!)だという事などをうかがいました。
しかし、90歳とはとても思えないほど若々しくて元気なオバアチャンです。
夕食も終わり一息ついてお風呂をいただきに近所のオバアチャンのうちに連れていっていただきました。
お風呂をいただいた後、お茶に呼ばれて、泊めてくださるオバアチャンとお風呂に呼んでくださったオバアチャンとそのお嫁さんと炬燵を囲みました。
とても美味しいワラビのお浸しやお孫さんから送ってきたという柏餅などをいただき、世間話に加わらせていただきます。
すると、お嫁さんが僕が今日通ってきた長者が岳から小草里への道を復旧するために山梨県から頼まれて働いているという事を聞きました。
そう言われれば、小草里に近づくにつれ倒木の枝が払われたり、倒木がどかされていたり、徐々に整備されていた感じがします。
僕らは道を通ってしまえばそれまでですが、その道を整備して歩ける状態に保つには地元の方々の地道な努力が払われている事に気が付きました。
そのことに気が付くと、今まで道の整備状態が悪いなどと文句を言っていた自分が恥ずかしくなってきます。
僕らは、道を歩ける事に感謝こそすれ、文句など決して言ってはならないのだという事を肝に銘じました。
今夜は、いい人たちのいるいい田舎に泊る事ができました。夜、オバアチャンのしいてくれた暖かい布団に包まって天子の麓に暖かい天使たちがいた事に感謝をしたのでした。
(おばあちゃんの話については後日談があります。興味のある方は番外編をお読みください。)
猪之頭やその手前の朝霧グリーンパークや田貫湖への富士宮駅からのバス便は本数が少ないので必ず富士急静岡バス(0544-22-3100)に問い合わせてください。
ただし、文中にもありますが白糸の滝までは、たくさんのバス便があります。
現状では熱海駅以東では東海道線の始発に乗っても猪之頭行きの朝のバス便には間に合わないので、取り合えず白糸の滝まで行く事になるでしょう。
白糸の滝まで行くことができても、白糸の滝から猪之頭や田貫湖までは徒歩で行くにはかなり距離があるので、白糸の滝レストセンター前にあるタクシー会社(昭和タクシー(株)白糸の滝営業所0544-54-0119)でタクシーを出してもらうのが現実的でしょう(ヒッチハイクにトライしてみてもいいですが)。
猪之頭から田貫湖までは迷う事はまず無いでしょう。田貫湖畔まで出てしまうと行き過ぎですので、手前で長者が岳に登ってください。
長者が岳まではきつい登りですが、歩くのに問題はありません。背後には富士山が見えるので時折振り返りながら歩くとよいでしょう。
長者が岳の山頂には広場がありテーブルやら椅子やらがあります。
長者が岳から天子が岳へはすぐですが、天子が岳の山頂の見晴らしはそれほどよくないそうです。
天子が岳からは白糸の滝方面へ下る登山道があるらしく、山頂からこの登山道で少し下ると素晴らしい眺望がえられるところがあるそうです。
長者が岳(天子が岳)から下ると上佐野地区へ出ます。
文中では小草里という名前にしていますが、上佐野地区の中でも上佐野というところと小草里というところがあるようで、佐野川を挟んで天子が岳側が小草里、思親山側が上佐野のようです。
郵便物などの住所は小草里であっても上佐野になっているようです。
さて、下りですが、できればこの道は通らない方が良いでしょう。
ですから、ハイキングで自然歩道を歩かれる方はこの道はルートに入れないようにしてください。
踏破を目指す方は腹を決めて通るようにしてください。
文中にもあるように小草里の方から徐々に整備がなされてきているようですが、完全になされるまでは時間がかかりそうです。
また、通行止めの標識は長者が岳からの下りにはありません。
通行止めの標識が無いからといって安易に下り路に入らないようにしてください。(補修状況については番外編をお読みください)
小草里までは内船駅から日に3本町営バスが走っています。
また、上佐野地区には幾つか民宿があり、キャンプ場もあるようです。
交通・宿泊とも詳細は南部町観光協会(05566-4-3111)にお問い合わせ下さい。