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 小中学生のための超心理学入門 10


念 力

 サイ現象にはESPと念力のふたつが含まれることは、前に話した通りだ。続いては、念力の話をすることにしよう。念力とは、心の力だけでものを変化させる現象のことだ。スプーン曲げや念写については、君たちもよく知っているだろう。しかし念力には、その他にも、たくさんの種類がある。昔、交霊会で物理霊媒が見せていたテーブル浮揚も、さまざまな物理的現象が自然に起こるポルターガイストも、一部の宗教の中で行なわれている信仰治療も、さいころを振って念じた目を多く出すことも、ふつうの力によるものでなければ、念力によるものとされる。

 ESPと同じく念力も、偶発的に起こるものと実験的に確認されるものとに分けることができる。そして、偶発的な念力現象の代表がポルターガイストだ。ただし、前にも話したように、ポルターガイストにも、生者の中心人物がいるものといないものとがある。生者の中心人物のいないものは、死者の念力によって起こるのかもしれないが、ここでは生者の念力による現象だけを取りあげることにする。

 ポルターガイスト現象として多いのは、物体の移動や運動、物音や叩音(こうおん)、閃光などだ。物体の移動としては、空中に浮揚したり、空中をジグザグに動いたり、空中で急停止したり、軌道を直角に変えたりなど、ふつうには考えられない動きをすることも少なくない。(このような動きは、不思議とUFOに似ている。)また、現象の持続期間は、短いもので一日、長いものでは6年にも及び、平均は5.1ヵ月ほどだったという研究もある。

 その研究によれば、生者の中心人物は、年齢が8歳から70代にまで及んでおり、平均年齢は女性で15歳、男性で17歳だったという。つまり、ポルターガイストの中心人物は、思春期の少年少女が圧倒的に多いのだ。また、性別では、男性よりも女性の方がかなり多いらしい。

 この種のポルターガイストでは、中心人物が眠ったり、外出したりすると、現象が止まってしまう。また、現象が外出先にまでついて行く例もあるという。つまり、この種のポルターガイストは、幽霊屋敷とは違って、場所ではなく、人物中心に起こるということだ。

 ポルターガイスト現象では、偶発(ぐうはつ)的な念力が繰り返し起こるが、繰り返し起こらない偶発的な念力現象もある。遠くにいる肉親が死亡すると同時に、掛け時計が止まるとか、その肉親の写真が棚から落ちるとかだ。この場合も、ESPと同じく、肉親や知人の死や危機状況に関係して起こることが多いようだ。

 もちろん、それが本当に念力によるものかどうかは、詳しく調べてみなければわからない。しかし、ポルターガイストの場合には、現象が繰り返し起こるおかげで注目されやすいし、確認もある程度できるだろうが、単発的な念力現象の場合には、わかりにくいし確認も難しい。そのためか、アメリカのFRNM超心理学研究所のL・E・ラインさんが一般市民から集めた1万例以上のサイ体験の中でも、偶発的な念力現象と思われるものは178例にすぎなかったという。

 この研究所に所属していたウィリアム・コックスさんは、おもしろい研究を行なっている。4人続いて同じ性別の子どもが生まれたら、両親としては別の性別の子どもをほしがるのではないか、と考えたコックスさんは、4人続いて同じ性別の子どもが生まれた後に5人目の子どもが生まれている家族の家系図を661件集めた。別の性別の子どもがほしいという気持ちが、無意識のうちに念力となって働くのではないか、と考えたからだ。

 調査の結果、興味深いことがわかった。男の子が4人続いて生まれている場合には、5人目が男の子だったのが207例(50.7パーセント)、女の子だったのが2101例(49.03パーセント)とほとんど差がなかったのに対して、女の子が4人続いている場合には、5人目が男の子だったのが144例(56.9パーセント)、女の子だったのが109例(43.1パーセント)と、男の子が生まれていることの方がかなり多かったのだ。しかし、統計的な計算をしたところ、はっきりした違いとは言えないことがわかった。

 念力の研究は、実験を使っても行なわれている。昔は、特定の目が出るように念じながらサイコロを転がし、その結果を統計的に計算して、そこに念力が働いていたかどうかを検討する研究が中心だったが、今はいろいろな方法で研究が行なわれている。

 ここまで読み進んできた君たちは、どうして日本の研究が出てこないか不思議に思っているかもしれない。理由は簡単で、日本では超心理学の研究がほとんど行なわれていないからなのだ。しかし、知っている人もいるだろうが、世界に先駆けて、明治の終わりから大正のはじめにかけて念写の研究をした日本人があった。東京帝国大学(今の東京大学)心理学助教授の福来友吉さんだ。福来さんは、今でも、欧米の研究者の間ではよく知られている。

 催眠(さいみん)の研究者だった福来さんは、催眠状態にある被験者を使って透視の研究をしていた。そして、未現像のネガに写っている像を被験者が透視できるかどうか実験している時に、被験者の“念”によって感光が起こるらしいことがわかり、それがきっかけとなって、念写の研究をするようになった。念写能力を持っているとされる被験者が何人かいたおかげで、当時としては、かなり詳しい研究ができたのだ。

 しかし、超常現象特有の“とらえにくさ”のため、批判者を納得させるだけのデータが得られず、結局、日本では福来さんの研究はほとんど否定されてしまった。そして、福来さんは、東京帝国大学をやめざるをえなくなった。この事件の影響で、日本では超心理学が正当に評価されないまま来ているのではないか、と考える人もある。

 福来さんの研究を参考に念写の研究が再び行なわれるようになったのは、皮肉なことに、日本ではなくアメリカだった。コロラド州デンヴァーに住む精神分析医ジュール・アイゼンバッドさんが、管理をきちんとしていればインチキを疑われにくいポラロイド・カメラを使って、テッド・シリアスさんを被験者として1964年に念写の研究を始めたのだ。

 その後私たちも、清田益章さんを対象に、1979年から念写とスプーン曲げの研究を行なっている。シリアスさんは、ポラロイド・カメラを自分に向けてシャッターを切るという方法で念写を行なったが、清田さんは、旧型のポラロイド・カメラから電池を抜いて、シャッター・ボタンを押してもシャッターが切れないようにして実験を行なっている。そして、調子のいい時にはカメラに触れないようにして、一度に複数の印画紙に感光させることに成功しているのだ。そのような結果からすると、やはり念写という現象はあると言わざるをえない。

 スプーン曲げについては、君たちもよく知っているだろう。しかし、手品という疑いを持たれやすいものだけに研究が難しい。“とらえにくさ”という問題さえなければ、ことは簡単なのだが、万人を納得させるための決定的証拠をつかもうとすると、ほとんど不可能になってしまう。そういうと、批判的に見る人たちは、インチキだからそうなのだと主張するだろうが、実際にはそうではない。

 私たちが清田益章さんを対象に実験を行なった結果、調子がよければ清田さんは、スプーンの首の部分を念力だけでねじれることがわかった。ところが、自分の目で見ないと信じられないかもしれないが、そのような場面をビデオで録画しようとすると、その瞬間にスプーンの変形が止まってしまったり、焦点が合わなくなってしまったり、ひどい場合にはビデオのスイッチがひとりでに切れてしまったりして、第三者を納得させることができる証拠が結局得られないのだ。

 スプーン曲げに関する研究は、日本では、電気通信大学の佐々木茂美教授のグループや私たちのグループが、外国では、念写の研究で有名なアイゼンバッドさんや、生まれ変わりの研究で有名なヴァージニア大学精神科のスティーヴンソン教授のグループその他が行なっているが、残念ながらどこで行なわれた実験でも、その場に立ち会っていない第三者を十分納得させることのできるデータは得られていない。

 スプーン曲げや念写など、肉眼で確認できる念力現象をマクロPKというが、統計的な処理をしてようやく現象の確認できるミクロPKとは違って、マクロPKは、“とらえにくさ”の影響を直接に受けやすい領域といえる。マクロPKの一種であるポルターガイスト現象が注視している時に起こりにくいのも、“とらえにくさ”に関係しているいえよう。逆にいえば、インチキや手品や暗示などで説明がつきやすい状況の方が、本物のサイ現象も起こりやすいことになる。

 次は、そのような意味で興味深い心霊治療について話すことにしよう。

 心霊治療には、患者の体に手をかざしたり、“指導霊”や祖先の“霊”の力を借りる、神や聖者に祈る、魔法の薬を使う、病気を去らせるよう念を込めるなど、さまざまな方法がある。このような方法は、いくつかの新宗教の中でも行なわれている。では、その結果病気が治ったとしたら、心霊治療の効果によるものと考えてよいのだろうか。

 もちろん、そう簡単にはいかない。たとえば、癌(がん)のような難病でも、“自然退縮(たいしゅく)”といって、医学的には説明のできないような形で好転する例があるし、心身症のように心理的原因で病気が起こっている場合には、暗示の力などによって症状が軽快することが知られているからだ。そのため、心霊治療が本当に効果があったかどうか確かめるのはかなり難しい。

 超心理学では、“心霊治療師”が実際に治療を行なった結果を研究することはもちろん、治療師に実験的に動物を“治療”してもらい、それを厳密に検討するという方法も使っている。相手が動物なら、人間の場合と違って、暗示による効果を考えずにすむからだ。

 カナダのある大学の研究者であるバーナード・グラッドさんは、背中の皮膚を一定の大きさだけ切り取ったネズミを20匹ずつ計60匹使った実験を行なった。エステバニーさんという心霊治療師がカゴの上から一定の時間ずつ手をかざすグループ、手の温かさと同じ温度を与えるグループ、何もしないで放置するグループに分けて実験したところ、エステバニーさんが手をかざしたグループのネズミが、放置しておいたグループのネズミよりも、傷の治りがよかったことがわかったという。

 この他にも、心霊治療という現象があることを裏付ける証拠はかなり得られている。一方、フィリピンの心霊手術などのように、インチキがかなり見つかっているものもある。しかし、フィリピンの心霊手術でも、アメリカの医師が医学雑誌に、医学的には考えられない治癒例を報告している。“とらえにくさ”という点から考えると、インチキや暗示効果や錯覚などで説明しやすい状況の方が、本物の超常現象も起こりやすいといえるのではなかろうか。次に、その問題に触れることにしよう。


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