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 小中学生のための超心理学入門 7


霊媒(れいばい)を通じた死者との交信

 死後生存の問題を検討できる分野はもうひとつある。最近よく耳にする“チャネリング”とよく似た、霊媒を通じて行う死者との交信だ。チャネリングでは、チャネラーが語る内容は事実かどうか検討できない場合がほとんどのようだが、霊媒による交信では、たいていの場合、それが事実かどうかを確認することができる。

 霊媒を通じて“死者”が交信してきたとしても、死後の世界の存在を証明するには、その“死者”が本当の死者だということが確認できなければならない。そのためには、その″死者 がだれなのかを突き止める必要がある。

 たとえばAさんが死んでしばらくした時、Aさんの遺族が霊媒に頼んでAさんの“霊”を呼び出してもらったとしよう。人間同士は、ふつう、相手を顔で見分けている。霊媒を通じてAさんが遺族に呼びかけてきたとしても、遺族にはAさんの顔は見えないため、その“呼びかけ”が本当にAさんによるものであることを確認するには、顔以外の特徴を利用するしかない。

 Aさん以外の人間は知らないはずの家族内の事情を、Aさんの“霊”が正確に言い当てても、それだけではAさんが死後にも生き続けていることの証拠にはならない。霊媒が、意識的、無意識的にESPを使ってそれを知り、あたかもAさんが“霊界”から語りかけているように遺族に話した、という可能性があるからだ。

 では、顔以外の特徴で確実にAさんと見分けることのできる方法があるだろうか。よく考えてみると、性格や癖や話し方などの特徴だけでは、人間をまちがいなく本人と見分けることはできないのだ。よく知っている人でも、顔を隠していると、「たぶん、Bさんだろう」とは思っても、顔を見るまではやはり不安が残る。生きて目の前にいる人物を見分ける場合でも、このように不確実だとすれば、死んでから霊媒を通して語りかけてくる存在を、特定の人物と確認するのはきわめて難しいことがわかるだろ う。

 霊媒は、昔から世界各地に見られた。だが、超心理学の方面で有名な霊媒は、19世紀後半の欧米にたくさん登場した。当時、心霊研究者(超心理学者)たちが実験の対象にした有力な霊媒には、リアノラ・パイパー夫人やオズボーン・レナード夫人がいる。霊媒には、物理霊媒と精神霊媒とがある。物理霊媒というのは、霊媒を囲んで行なう交霊(こうれい)会の中で、念力による現象を起こすとされる霊媒のことだ。それについては、いずれこの中でも取りあげるつもりだ。ここで問題にしているのは、精神霊媒の方だ。

 霊媒にも、インチキな者もあるし、本人は真面目でも実際にはそのような能力のない者も多い。しかし、パイパー夫人やレナード夫人は、会席者(交霊会に出席している者)の家庭の中で起こった出来事など、知らないはずのことをかなり言い当てているし、研究者が厳密に検討しても、ふたりがインチキをしている証拠はひとつも見つからなかった。

 パイパー夫人にしてもレナード夫人にしても、通常は“トランス”状態と呼ばれる変わった意識状態で交霊会を行う。そして、その状態の霊媒に、支配霊と呼ばれる存在が乗り移る。支配霊は、会席者が呼び出す死者の霊と霊媒の仲立ちになるのだ。

 そして、呼び出したい霊を呼び出すことに成功したように見えても、前回あげた問題の他に、ESPによって知った内容を霊媒が話しているにすぎない、という可能性が考えられる。つまり、Aさんの遺族が霊媒の前に来て、Aさんを呼び出してほしいと直接頼んだのでは、霊媒が、目の前にいる遺族からAさんのことをESPで知ってしまい、それを、Aさんの霊がいかにも霊媒を通じて語っているかのように演技している可能性があるのだ。

 そのため、交霊会に,Aさんを直接知らない代理を出席させるなどの方法がとられたが、批判者から見ればそれでも十分ではなかった。つまり、霊媒が強力なESPを発揮して、世界のどこかにあるAさんに関する情報を探し出してしまう可能性がある、ということだ。このようなESPは超ESPと呼ばれる。超ESPが本当にあるのかどうかはわかっていないが、その可能性がある限り、死者の霊が本当に霊媒を通じて交信してくるのかどうかはわからない。

 超ESPなどの可能性がある限り、霊媒を対象にした研究では、死後生存問題を解決することは難しい。それはともかく、実際にはどのような例があるかを見てみよう。

 1921年に行なわれたレナード夫人の交霊会で、支配霊のフェダは次のように語った。

 「それからこの男性はこう言います。『‥‥受け取りが一枚入った古い札入れがあった。受け取りは小さな紙切れだ。君がそれを見つけてくれるとありがたいんだが。‥‥他のがらくたと一緒に入っていると思うが』。この男性は‥‥その受け取りを控えだと言ってます。‥‥そばに細長いひもがあります」

 その男性(霊)の母親は、その紙切れを捜している時、納戸にしまってあったトランクに、長いひもが掛かっているのを見つけた。トランクを開けて中身をかき回すと、すりきれた古い札入れが出てきた。そして、その中から、古くなってすりきれた、為替を送った時の控えが出てきたのだ。

 その後、母親は、“敵国負債返済局”から、ハンブルクの会社から借りた金を返済するようにという手紙を受け取った。母親は、息子が返済したことを知っていたため、担当者にそのことを手紙で知らせたが、まだ受け取っていないという返事だった。その時、レナード夫人の交霊会で聞いた言葉を思い出し、例の受け取りを見たところ、その借金の返済を証明する領収書だということがわかった。そこで母親は、担当者にその取引の計算書を送ったところ、担当者はそれを認めてくれ、謝罪の手紙を書いてきたという。

 このような例はどう考えればよいのだろうか。インチキによるものではないとしたら、レナード夫人がESPや超ESPでこの息子のことや為替の控えのことなどを知り、いかにも死んだ息子からそのことを知らせて来たかのように演技したのだろうか。その可能性はないわけではなかろうが、高くはなかろう。

 次に、このような古い例ではなく、比較的最近行われた実験について話すことにしよう。

 霊媒の研究を通じて、人間が死後にも生存を続けるかどうか検討するためには、これまで述べてきたように、交霊会に代理を出席させるなどの方法では不十分だ。ヴァージニア大学精神科のスティーヴンソンは、この問題を解決するため、おもしろい研究法を考えた。

 霊媒を囲んで交霊会を行っていると、呼び出す予定ではなかった別の″霊 が飛び込んで来ることがある。“飛び入り交信者”と呼ばれるこの“霊”は、その時点では霊媒にも会席者にもその存在を知られていないため、そこで得られたデータを、この世にいる人間からのテレパシーなどによって説明するのが難しくなる。つまり、死者から直接に交信してきた可能性が高くなるということだ。

 しかし、インチキではないか、という批判はかえって起こりやすくなるかもしれない。霊媒がその気になれば、それらしいことをいくらでも言えるし、昔知っていたことを霊媒が意識のうえで忘れていて、それが、まるで死者からの交信のように意識にのぼってきた可能性も考えられるからだ。

 そのような点に注意すれば、死者が本当にこの世の人間に交信してくるのかどうかを調べることができるかもしれない。このような事例の中でも有力なものでは、交信してきた存在の身元を後で突き止めることができ、その交信者が霊媒を通じて語った内容が、生前の本人の特徴と一致するかどうか確認することができる。

 話がややこしいので、少し整理してみよう。たとえばAさんが霊媒のところへ行き、死んだ母親を呼び出してもらったとしよう。この時、母親の“霊”が出てきて、Aさんの知らなかったヘソクリのありかを知らされたとしても、霊媒がそのありかを自分の透視能力を使って知ってしまい、それを、Aさんの母親が教えたように話した可能性が残る。でも、霊媒もAさんも知らないBと名乗る存在が突然出てきて何かを語り、後でBさんという人が本当にいたことがわかり、その話の内容が生前のBさんの特徴と一致すれば、Bさんの“霊”が本当に交信してきた可能性が高くなるということだ。

 ヴァージニア大学のスティーヴンソン教授は飛び入り交信者の例をいくつか研究している。その中の一例では、スイスのチューリヒで時々交霊会を行っているアマチュアのトランス霊媒シューツさんのもとに、1962年2月、″飛び入り交信者 が姿を現した。その時の交霊会には、大学の教授夫妻をはじめ、3人が列席していた。トランス状態にあるシューツさんは、次のような言葉を口にしている。

 「今まきばにいる。小さな男の子が来た。‥‥その子は盲腸になったことがある。‥‥小児病院で死んでる。‥‥この子はインド人の名前だった。‥‥この子は、こういう茶色の‥‥パソナ。‥‥〔チューリヒの〕第7区に住んでた。今この子が言っているけど、ただの盲腸じゃなかった。かなり熱が出る珍しい病気だった。‥‥この子は髪の毛が黒で茶色の目をしてる。まだ兄弟がふたり生きてる。‥‥たぶんお父さんがお茶に関係してたのかな。‥‥お母さんによろしくって言ってる‥‥」

 この時の会席者は、この交信に興味を持ち、パソナという名字をチューリヒの電話帳で探したところ、パソナはなかったが、パサナという名字の家族が実際にいることがわかった。この家族と連絡をとった結果、この一家が茶の輸入商をしていること、家族全員がよく茶を飲むこと、チューリヒの第7区に住んでいたことがわかった。そのうえ、かなり以前に4歳の男の子を小児病院入院中に虫垂炎で亡くしていることがわかったのだ。

 その子は三男のロバートで、ふたりの兄とともにインドで生まれていた。ロバートが生まれてから一家はチューリヒに引っ越した。そこで父親はインドから茶などの商品を輸入する仕事を始めた。スティーヴンソンがロバートの病院のカルテを調べたところ、虫垂炎ではなく、確かに高熱の出る珍しい病気で死亡していることがわかった。また、ロバートは髪が黒く、目は茶色だった。

 スティーヴンソンは、この事例を丹念に調べた結果、霊媒が昔ロバートの話を聞いていたのに意識ではそれを忘れていて、まるでロバートが交信してきたかのように話した、などという可能性はあまり考えられない、という結論に達している。

 アイスランドの心理学者エルレンドゥール・ハラルドソンとアメリカの精神科医スティーヴンソンが共同して、アイスランドの有名な霊媒ハフスタイン・ビヨルンソンを対象に、10名の会席者を用いた実験を1972年にアメリカで行っている。代理交霊会などでは、霊媒がふだんとは違う方法を使うため、本来の能力が発揮(はっき)されない可能性がある。そのためこの実験では、ビヨルンソンのいつものやり方に近い条件を採用している。

 その時の交霊会は、会席者をひとりずつ霊媒の前に呼び、全部で10回行われた。会席者がそのまま霊媒の前に来ると、当然、五感やESPを使って情報を察知してしまうかもしれないので、霊媒と会席者の間には厚いカーテンが下げられ、互いの姿が見えないようにされた。会席者は10人とも、霊媒とは個人的に接触したことはなかった。

 会席者はカーテンを隔て、霊媒の前にひとりずつランダム(でたらめ)な順に座った。また、そのあいだ霊媒が何を言っているのかわからないようにするため、会席者の耳にはイヤフォンが付けられ、音楽が流された。

 霊媒は、それぞれの会席者がカーテンを挟んで座ると、その会席者の回りに見える(という)死んだ肉親や友人のイメージをテープに吹き込む。それを10人に繰り返した後、そのテープから書き起こした記録をランダムな順に並べ換え、それぞれの会席者に渡す。会席者はそれを、霊媒が自分の番のときに語ったと思う順に並べる。その結果、自分が座ったときに霊媒が語った記録を当てたのは、4人だった。この数字は、偶然に当たるとは考えにくいほど多かったといえる。また、霊媒が、死んだ肉親や友人の名前を正確に言い当てた例もかなりあった。

 ところが、ハラルドソンが別の心理学者ともう一度行なったビヨルンソンの実験では、はっきりした結果が得られなかったという。同じ条件で同じ実験を繰り返したとき、同じ結果が得られることを、“再現性がある”というが、この実験は再現性がなかったことになる。

 霊媒の実験には限らないが、超心理学の実験には前回話したような再現性があまりないものが多い。ただそれは、物理学や化学と比べた場合の話であって、人間を対象にした、たとえば心理学などの場合には、再現性はそれほど高くない。超心理学の批判をする人たちの中に、再現性が低いことをその理由にする人が多いが、心理学などの一般的な基準をよく知ったうえで批判するのでなければ、あまり意味のある批判にはならない。

 ところで、霊媒とよく似たものに、最近登場したチャネラーがある。チャネラーについては私はあまりよく知らないので、詳しく話すことはできないが、霊媒と混同する人がいるかもしれないので、ここで簡単にふれておくことにしよう。霊媒もチャネラーの中に入るという人もいるが、ここでいちおう分けて考える。しかし、定義を見る限り、両者の間にあまり差はないようだ。強いて言えば、霊媒の起源の方がチャネラーよりも歴史的に古い、ということだろうか。

 定義については、そのようにあまり差はないが、超心理学的には、かなりの差があるように見える。つまり、霊媒の中には、ごく少数だが実験に協力してある程度の成果をあげている者があるのに対して、チャネラーの中には、現在までのところでは、そのような者はほとんどいないらしい。それは、チャネラーが登場してまだ間がないからなのか、それとも、チャネラーと言われる人たちには、信憑(しんぴょう)性が確かめられる例が霊媒と比べて少ないからなのか、今のところどちらとも言えないように思う。

 私の調べた範囲では、チャネラーが語った言葉が本当かどうか確認できる例はほとんどなかった。霊媒でも圧倒的多数はそうなので、正式に報告されているチャネラーの実験がほとんどない現在、チャネラーの信憑性について考えるのは難しいのかもしれない。ただし、霊媒の場合にもそうだが、チャネラーが語ったことをそのまま事実と考えることはできない。占いと同じように信じることはかまわないが、それが事実かどうかは、科学的に検討してから決めなければならないからだ。


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