本書の第1部では、私の人間観の概略を示したうえ、長年、心因性疾患全般の心理療法を専門としてきた人間が、かくも奇妙な人間観を持つようになった経緯について述べる。最初は精神分裂病(昨今の用語では、統合失調症)を、その後は主として心身症を対象にして心理療法を続ける中で、反応および抵抗という現象が確認された。それと並行して、無意識というものが、精神分析で言われてきたものとはまったく異なっていることがわかってきた。そして、反応という明確な手がかりをどこまでも追い続けた結果、心因性疾患のあるなしにかかわらず、人間には誰にでも、反応や抵抗の起こることが次第に明らかになったのである。そうすると、異常と正常を切り分けることは、容易にはできないことになる。
第2部では、現在の私の人間観や理論の全体像を描き出そうとしたが、紙幅の関係もあって、必ずしもそれに成功したとは言えないかもしれない。とはいえ、私の長年の研究テーマである、幸福否定という、人間全般に見られる(本能的とも言うべき)このうえなく強い意志と、その裏に見え隠れする人間の本質については、さまざまな角度から、具体例を掲げながら、ある程度の紙幅を割いて説明することができた。また、無意識の重要性や、生きた心を扱うことの重要性についても、その中で、自然におわかりいただけるはずである。(「序章」より)
かつて精神分裂病の心理療法として一時注目を浴びていたにもかかわらず、その後、専門家からその存在を完全に抹殺されて現在に至っている小坂療法について、その歴史や追試の結果が、小坂英世先生との個人的接触を含めて、かなり詳しく書かれているのも、本書の大きな特徴と言えるでしょう。小坂療法について、ここまで詳細に書かれた本は他に存在しません。本書は、結果的に、精神科医に対するかなり厳しい批判にもなっています。小坂療法は、いつの日か必ずや再び脚光を浴びることになるはずです。小坂療法や分裂病の心理療法に関心のある方は、ぜひ本書をお読み下さい。
また、オウム真理教の麻原彰晃についても、私の人間観から、これまでにない分析を行なっています。麻原彰晃はなぜ妄想を抱くに至ったのか、なぜ拘置所で拘禁反応を起こしたのか、専門家はなぜそれを拘禁反応と認めようとしないのかなど、麻原彰晃をめぐるふしぎな問題についても扱っています。
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