DSM-IVによるPTSDの診断基準
【註】邦訳版の診断基準はわかりにくいので、アメリカ精神医学協会版から拙訳することにしました。以下の拙訳のほうが、少しはわかりやすくなっていると思いますが、法律の条文のような側面があるので、一読しただけでは意味のとりにくい部分がどうしても残ります。
邦訳版の翻訳にはいろいろ問題があります。たとえば、原文B項の1にある intrusive distressing recollections という表現を、邦訳版のように「侵入的で苦痛な想起」などと訳したのでは、意味がよくわからなくなってしまいます。「侵入的」などというもっともらしい訳語を与えられると、精神医学的に何か特殊な意味があるように感じられるかもしれませんが、intrusive あるいは intrusion という単語は、日常用語であって、精神医学の専門用語ではありません。現に、この単語は、DSMを生み出しているアメリカ精神医学協会(APA)が刊行した精神医学用語集(Edgerton, J.E., and Campbell, R.J. [eds.].[1994]. American Psychiatric Glossary. 7th ed. Washington, D.C.: American Psychiatric Press)にも、英国の大きな精神医学辞典(Campbell, R.J. [1985]. Psychiatric Dictionary. 6th ed. Oxford: Oxford University Press)にも掲載されておりません。念のためOEDの第2版(CD-ROM版 ver. 3.0, 2002)も調べてみましたが、やはり特別の意味は載っていませんでした。この言葉をふつうの日本語で表現すれば、要するに、「払っても払っても襲いかかってくる忌まわしい記憶」ということです。
なお、当ホームページは Google Chrome か Mozilla Firefox でご覧になることを強くお勧めします。Internet Explorer では、表の表示が大きく崩れるなどの問題がありますが、最新版(IE9)であれば、アドレス欄の右側にある青色のボタン(「互換表示」)をクリックすると、正しい表示に近くなるようです。
- 以下の2条件を備えた外傷的出来事を体験したことがある。
- 実際に死亡したり重傷を負ったりするような(あるいは危うくそのような目に遭いそうな)出来事を、あるいは自分や他人の身体が損なわれるような危機状況を、体験ないし目撃したか、そうした出来事や状況に直面した。
- 当人が示す反応としては、強い恐怖心や無力感や戦慄がある。
【備考】 子どもの場合には、むしろ行動の混乱ないし興奮という形で表出することもある。
- 外傷的な出来事は、次のいずれかの(あるいはいくつかの)形で、繰り返し再体験される。
- その出来事の記憶が、イメージや考えや知覚などの形を取って、追い払おうとしても繰り返し襲ってくること。
【備考】 幼児の場合には、繰り返し行なう遊びの中に、その外傷の主題やその側面が現われることもある。
- その出来事が登場する悪夢を繰り返し見ること。
【備考】 幼児の場合には、内容のはっきりしない恐ろしい夢のこともある。
- あたかも外傷的な出来事が繰り返されているかのように行動したり、感じたりすること(その出来事を再体験している感覚、錯覚、幻覚や、覚醒状態や薬物の影響下で起こる解離性フラッシュバックもここに含まれる)。
【備考】 幼児の場合には、外傷特有の再現が見られることもある。
- 外傷的出来事の一面を象徴するような、あるいはそれに似通った内的・外的な刺激に直面した時に、強い心理的苦痛が起こること。
- 外傷的出来事の一面を象徴するような、あるいはそれに似通った内的・外的な刺激に対して、生理的な反応を起こすこと。
- 当該の外傷に関係する刺激を執拗に避け、全般的な反応性の麻痺が執拗に続く状態が(その外傷を受ける前にはなかったのに)、以下の3項目以上で見られること。
- その外傷に関係する思考や感情や会話を避けようとすること。
- その外傷を思い起こさせる行動や場所や人物を避けようとすること。
- その外傷の要所が思い出せないこと。
- 重要な行動に対する関心や、その行動へのかかわりが著しく減少していること。
- 他者に対する関心がなくなった感じや、他者と疎遠になった感じがすること。
- 感情の幅が狭まったこと(愛情を抱くことができないなど)
- 未来の奥行きが狭まった感じがすること(出世や結婚、子ども、通常の寿命を期待しなくなるなど)。
- 高い覚醒状態を示す症状が執拗に続く状態が(その外傷を受ける前にはなかったのに)、以下の2項目以上で見られること。
- 入眠や睡眠状態の持続が難しいこと。
- 激しやすさや怒りの爆発があること。
- 集中困難があること。
- 警戒心が過度に見られること。
- 驚愕反応が極端なこと。
- その障害(基準B+C+Dの症状)が1ヵ月以上続くこと。
- その障害のため、社会的、職業的に、あるいはその他の重要な方面で、臨床的に著しい苦痛や欠陥が見られること。
次の点を明確にすること:
急性――症状の持続期間が3ヵ月未満の場合。
慢性――症状の持続期間が3ヵ月以上の場合。
次の点を明確にすること:
発症遅延型――発症がストレス因から少なくとも6ヵ月経過している場合。