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風景素描 「自然」 「都市」 「建築」

  
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 河田新一郎
 河田建築設計事務所
 2007/11出版
 136p 20cm×21cm
 \1,905(税込\2,000)
この風景素描は自然、都市、建築の三部構成となっている。それぞれのジャンルの中で今までに体験し感銘を受けた心象風景を描写しそれを纏めたものである。自然は都市と建築と共存しており良い環境を構成するために欠かせない。その自然を知ることは環境を創造するために不可欠と云っても過言ではない。自然から都市を含め建築に到るまでの様々な形態を具に観察しその美しさを何とか表現してみたいと思ったのが事の始まりであった。
風景画と云えば水彩画、油彩、版画等多岐に亘るがここでは鉛筆一本のモノクローム仕上げとした。風物を単色で仕上げることによりそのフォルムの真価に迫ることが出来るからである。又各絵にはそれぞれコメントを付記してその情景理解への一助とした。風景の描写によりその環境の持つ固有で深遠な姿を認知しそれが豊かで質の高い環境造りに昇華することを願っている。

著 者

 

「風景素描」(T)の講評――文芸社より―― (抜粋)

● 世界各地の名だたる建築物や整然とした都市の町並み、そして日本に点在する美しい自然を細密な鉛筆画と水彩画で表現した作品集である。建築家である作者にとって、建築物を描写することは決して苦ではないだろうが、それにしてもこの緻密さには驚かされる。特にそれが顕著なのは、やはり作者の専門分野である建築物を捉えた作品である。「ボストン・ビーコンヒルズ」のレンガ一枚、石畳の一つに見られる丁寧な仕事ぶりはさすがである。それも詳細なだけではなく、その一つひとつに長い年月風雪に耐えてきた歴史の重みが感じられる。「立石寺《山寺》仁王門」などは、木造建築ならではの風合い、観る者を包み込む静寂さまでも伝わってくるようだ。そしてそれは、風景においても同様で、「梓川と穂高連峰」「仙人池と剣岳」の雄大な山々は、観る者を圧倒せずにはおかない。「裏磐梯・中津川渓谷」における水の流れは迫力があり、臨場感ある一枚に仕上がっている。この作品もそうだが、構図の取り方も、建築家である作者の視点が見事に活かされていると言えよう。ここには、自然と都市、自然と建築物の関係を模索する作者の視点が、作品のモチーフから覗える。自然とそこに生きる人々と建築の繋がりを、一人の人間且つ建築家の視点で編み上げたのが、本作品集であろう。

● 本作品集は「自然」「都市」「建築」というテーマのもと、日本および世界各国の姿が切り取られているが、主として「都市」「建築」の章に、都市と建築と人の在り方を模索する作者の視座が浮き彫りにされている。例えば、「都市」を描くといった場合、我々はすぐに、東京、大阪、名古屋、福岡という大都市そのものを連想するが、作者は都市にある公園や広場をモチーフに選んでいる。それは、都市において人間が自然とどのように関わっているかを一番よく表出している場所が、人々の憩いの場である公園や広場であるからだろう。人は自然と隔絶されて生きてゆくことは出来ない。ビルが林立する都市の中で、自然をどう残し、活かしてゆくかに、自然と都市と人間の絆が観えてくる。また、自然を取り入れた建築や日本の神社仏閣を数多く描いた「建築」の章にも、人々の建築物に込める想いが看取できる。

薔薇と緑に覆われ生活の中に自然を取り入れた古河邸、水の存在を空間に取り入れた旧帝国ホテル、そして人々の祈りと願いを受け入れる場所として自然の畏敬を体現した神社仏閣等、建築の在り方は、人の生き方そのものを表現していると言っても過言ではない。自然と都市と建築と人間の関係を切り取る独特の視点は、本作品集を鑑賞する醍醐味とも言えるだろう。

● 次に細密かつ繊細なタッチにより、自然の中で刻一刻と変化する天地空、水、樹木の姿をあるがままに描写した鉛筆画には、自然と一体化しようとする作者の眼差しが感じられる。被写体の形状や醸し出す雰囲気にあわせ、濃淡とタッチを上手く使い分け、空は 空の如く、水は、水の如く、山は山のごとく、あるがままをあるがままに表現しようとする姿勢が、画面に清浄な面持ちと遥かなる拡がりを生み出している。鉛筆画ならではのブラック&ホワイトの世界でありながら、彩色画さながらの色味が感じられるのは、単色ならではの黒と白の世界にこそ、作者は無限の可能性を発見したからではないだろうか。単に白と黒を対比させるのではなく、たとえば濃淡を微妙に調整し繊細な陰影を作り上げ、出来上がってみれば、まるで何色もの色を使っているかのごとく作品に仕上げている。それはそのまま、自然や建築物、そして都市が辿ってきた年月を思わせる風合いを表現しているとも言える。水彩画作品にはない、緻密な鉛筆画だからこそ表現できる味わいである。

● 破壊と創造を繰り返し発展を遂げてきた中で、歴史を具に見つめ風景と一体となり、人々の生活の一部となっている建造物は、掛けがえのない貴重なものであることは論を俟たない。悲しいことに特に日本ではその存在自体、非常に稀である。最近では全てを 新しくするのではなく、歴史的価値を残しつつ近代的な建築手法を取り入れる動きもあるようだ。その代表例が東京駅の改築であろう。人類の財産ともいえるこれら建造物や自然の素晴らしさを後世に残すためにも、その良さを多くの人に伝える意味でも、本作品集を世に問う意義は大きいと考えられる。本稿が書籍化を果たし、多くの人々が人間の在り方、自然と生活のかかわり方を真摯に考える契機となることを祈念したい。

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